第11話④
「あなたには迷惑だったとしても、私はあなたに会えて嬉しいわ。最初ね、初めて見たとき、私はあなたのことが悪魔だってわからずに、夜が何かに化けて空を駆けていると思ったの」
大切な秘密を打ち明けるように、ミアは話した。
そんなミアの言葉を、悪魔は無表情のままで聞いたあと「何をどう考えるかは勝手だが、おまえに羽をやるなんてことは、できない」と言った。
「でも、交換よ? 私の羽と。二人とも羽を持っているんだから、なにか方法があるんじゃないかしら」
ただで欲しいって言っているわけじゃないのだ。
「だめだ。無理だ。諦めろ」
「……そうなのね」
悪魔のきっぱりとした口調に、ミアは落胆した。
「だから、もう、おれのことを呼ぶな」
「それは、あなたが飛ぶ姿を見たいと、願ってもいけないってこと?」
「そうだ」
またもや、悪魔はきっぱりと言った。
「それは、無理よ」
ミアも負けずに、きっぱりと言う。
「なんだって?」
「だから、そんなの、無理よ」
「無理? なんでだ?」
「無理なものは、無理なのよ。だって、心が、そう思っちゃうんだもん」
――また、あの鳥と会うことができますように。
一年近く、毎日のように願っていることなのだ。
夜を一人で過ごすミアの、心の拠り所だったのだ。
それがなくなってしまったら、ミアはどうしたらいいのだろう。
悪魔はミアの答えを聞くと一度だけため息をつき「なら、仕方がない」と、ミアを抱える腕をさっと離した。
夜の空、ミアの体が宙ぶらりんになる。
悪魔の首に回された二本の腕だけが、ミアの命綱となった。
「おまえの命がなくなれば、心もなくなる」
悪魔の声は、今まで聞いた中で一番優しく聞こえた。
悪魔はミアの体から腕を離したものの、無理にミアの腕を引きはがそうとはしてこない。
まるで、ミアが諦めて手を離すのを、待っているかのようだった。
「おまえの羽にも仕掛けをしてある」
さっきのピリリとした痺れの意味を、ミアは理解した。
「私は飛べないのね」
「そうだ。おまえは、落ちるしかない」
悪魔は静かに言った。
ミアは、じっと悪魔を見た。
悪魔もミアを見た。
「私の思いが届いたのは、あなただけだったわ」
悪魔は不思議そうな顔で、ミアを見つめた。
「だから、嬉しかった」
そう言うと、ミアはその腕を、悪魔の首から離した。
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