第四章 ~『クラリスの捜索と仲間たちの協力』~
ハラルドの説得を諦めたアルトは領地へと戻る。クラリスの居場所を知るためには、仲間の協力が不可欠だと判断したからだ。
屋敷の談話室にはアルトが頼りにしている四人の仲間が揃っていた。
グラン。白髭を蓄えた彼は使用人たちのリーダーであり、元はハラルドの部下であったため、内部事情にも詳しい。有益な情報を期待できる。
エリス。薄目の彼女は王国でも五指に入るエリス商会の代表であり、商人たちと強い繋がりを持っている。情報に聡い商人は人探しに欠かせない人材だ。
クルツ。獅子のように茶髪を逆立たせた彼は、元負傷兵たちの代表である。王国最強の自然魔法を扱えるハラルドが誘拐犯なのだ。高い戦闘能力を誇る彼らは頼りになる。
ゼノ。黒のキャソックに身を包んだ金髪赤眼の彼は、聖堂教会の神父である。信者たちの情報網はもちろん、神兵たちの戦闘力も見逃せない。なんでもこなせる万能な彼を巻き込まない理由はない。
「皆に集まってもらったのは他でもない。クラリスのためだ。私の不手際で兄上にクラリスを攫われてしまったのだ。どうか捜索を手伝って欲しい」
アルトが頭を下げると、どよめきが走る。彼がゆっくりと顔をあげると、仲間たちは怒りの炎を瞳に宿していた。
「使用人一同、聖女様には恩義を感じています。必ず探し出してみせます」
「商人の結束の力を頼ってください」
「聖女の娘さんは根っからの善人だ。酷い目に遭わせる奴は俺が斬るッ」
「聖女様……ああっ……どこの悪人だっ。必ず天罰を下してやる!」
クラリスの捜索に賛同の意思が示される。時間も惜しい。やるべきことは決まっている。
「この中でクラリスの居場所に関する手掛かりを持つ者はいないか?」
アルトが問いかけると、最初に手を挙げたのは使用人の代表であるグランだ。
「実は、私の同僚が数日前に聖女様をお見掛けしたとのことです。なんでもアルト様と一緒に馬に乗っていたと話していました」
「それは私ではない。瓜二つの兄上だろうな」
ハラルドがアルト領にいると絞られた。これは大きな成果だが、同時に疑問も沸く。
「どうして兄上は私の領地であるアルト領に……」
理由を推測するが答えには至らない。だが敵地に潜伏するリスクを背負ってでも、見つからない自信があるのだ。
「数日前といえば、私の商会に王子が訪れました」
「何を買いに来たのだ?」
「主に食料を。特に高級菓子を大量購入されていました」
「それは変だな。兄上は菓子が苦手だ」
「クラリス様のために用意したのでしょうね。これで監禁場所から最寄りの街が商業都市リアであると推測できますね」
より近くに街があるなら、そちらを選ぶはずだ。敢えて遠い商業都市リアを選ぶ理由はない。候補は限りなく絞られたが、まだ広い。
「買い物に来た時刻はどうだった?」
「夕暮れ時でしたね……なるほど。日没までに拠点に戻れる距離だとしたら」
「さらに場所が絞られるな」
人気のなさ、立地、距離。すべての要素からクラリスの居場所を絞り込んでいく。地図で確認すると、該当箇所は一つしかない。
「魔物の森か。兄上も考えたな」
人探しは大勢の人員を動員して虱潰しに探すのが最も効果的だ。アルトには人を動かせるだけの権力と資金力があるため、ハラルドがそれを警戒するのも当然だ。
だが隠れている場所が魔物の森では、人手さえ集めれば何とかなる人海戦術は使えない。魔物が生息する危険地帯から無事に生還できる人材は限られるからだ。
「魔物の森なら俺たちに任せてくれ」
「我が聖堂教会の神兵もお役に立ちます」
だがハラルドは失念していた。アルト領には元負傷兵のクルツたちと、聖女を神だと崇めるゼノたちがいることを。
二つの勢力は人数も多い。捜索隊としては十分な数だ。やはり自分は仲間に恵まれていると再認識する。
「全員の力を合わせて、クラリスを救い出すぞ」
「おおおっ!」
窓ガラスが割れそうになるほどの大声で叫ぶ。地響きにも似た声は彼らの決意を表すのだった。
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