幼女化トリップしちゃったポンコツ魔女さん、うっかりマフィアに溺愛される
白霧 雪。
第1話
魔女養成学校に通うアルティナディアは、最終学年に進級するための試験に挑んでいる真っ最中だった。
十歳から十八歳の少女が通う魔女養成学校は一年生から七年生まではエスカレーター式だが、最終学年の八年生に進級するときだけ試験が発生する。
座学と実技、二つの試験が課せられるのだが、頭があまりよろしくないアルティナディアは実技試験にすべてを懸けていた。
普段は立ち入り禁止区画である『古き者の森』で、使い魔と契約をする――それが実技試験の内容だ。
魔物や妖精たちには人間が勝手にランク付けをした等級が存在する。
DランクからBランクは日常で目にする存在、Aランクはちょっと珍しいレア、Sランク以上になると御伽噺に出てくる幻想上の存在だ。
筆記がダメなら実技で補うしかないアルティナディアは、何が何でもAランク以上の使い魔と契約をしなければいけなかった。
「待って! お願いだから待ってったら……!」
木々の生い茂る森の中を、箒に乗ってなかなかのスピードで駆け抜ける。
アルティナディアの目の前をスイスイ飛んでいるのは黒い鱗に覆われた流美な体に、蝙蝠のような二対の翼。――Sランクのドラゴンよりも珍しい、SSランクのミニドラゴンだ。
しかも黒!
ドラゴンと言えばレッドやグリーンが主だが、ブラックドラゴンとなればさらにレア度は上がる! あの子と使い魔の契約ができれば実技試験合格は間違いなしだ。
「お願いだからわたしと契約してちょうだいっ!!」
前傾姿勢でブラックミニドラゴンを追いかけるアルティナディアは恥もプライドもかなぐり捨てて必死に叫んで懇願する。ミニドラゴンはドラゴンよりも知能指数が高く、人語を理解すると言われている。
その証拠に、くーちゃん(すでに名付けている)は時折振り返っては「きゅるるる」と独特な鳴き声を発していた。こんなことなら龍語の授業も取っておくんだった、と今更ながら後悔する。
「待って、待って! お願いくーちゃん! わたしの進級がかかってるのっ!!」
きゅるっきゅるるっくるるるるっと独特な音を喉で鳴らして、ご機嫌に長い尻尾を揺らすくーちゃん(仮称)。
追いかけっこを始めて、かれこれ一時間。
ミニドラゴンにとって、ここまでしぶとく、視界に入る距離を保って追いかけてくるニンゲンは初めてだった。だからつい、面白くなってサービスをしてやろうと、ついうっかり張り切りすぎてしまったのだ。
目の前で揺れる尻尾に伸ばした手をすり抜けて、ぴたりと止まったミニドラゴンは炎を吐き出す要領で大きく酸素を吸い込んだ。
かぱっと開いた口には鋭い牙が並んでいる。「わぁ! ドラゴンの口の中!」とはしゃいでしまったのもつかの間、
「――あら……? 炎、じゃない?」
しかし、吹き出されたそれは炎ではなく、どこまでも深く昏い深淵の闇だった。
「え、え、え、え、えっ!? なに!? くーちゃんこれなに!?」
くーちゃんは自慢げな様子で翼を畳んで胸を張り、アルティナディアは襲ってこない闇に首を傾げながら盾魔法を消してしまう。
――何が悪かったのかと言えば、盾魔法を解いて、警戒心無く闇に触れてしまったアルティナディアだ。
担当教師の魔女先生がこの愚行を知ったなら、顔を真っ赤にして怒鳴り散らすだろう。
「魔女見習いなんですから!! 触れる前に探知魔法やら索敵魔法やらを使いなさいと教えたはずです!!」
きっとSSランクのブラックミニドラゴンと使い魔契約をしたとして、もう一度七年生をやり直しなさい、と言われるに違いなかった。そしてそれを、闇(例えるならブラックホールだ)に触れてから思い出すものだから座学はポンコツと呼ばれるのだ。ちなみに、アルティナディアは実技ではトップクラスの実力を誇る魔女見習いだ。
「あっ」
「きゅるぅ?」
ダメだ。
闇に触れた指先から伝わる、熱を奪い去る冷気に、すぐさま手を引っ込めた――はずだったのに、指先から手のひら、手首と闇の中に吸い込まれていく。
ブラックホールとは、まさに言い得て妙だった。
座学がポンコツなアルティナディアはドラゴンに属性があるのを知らなかった。
レッドドラゴンなら火炎、グリーンドラゴンなら風、ブルードラゴンなら水――それぞれの色が属性と対比となっており、ブラックドラゴンと言えば『闇』属性だ。
ミニドラゴンで、さらに希少なブラックドラゴンのレートは
「うそ、まって、待って待って待って!!」
顔を真っ青にして、箒でブラックホールの吸収から逃れようとするがドラゴンの魔力質量に人間が敵うはずもなく、悲鳴もろとも、アルティナディアは深淵の闇にとぷん、と飲み込まれてしまった。
ぱち、と赤い眼を瞬かせたくーちゃんは、少しだけ考えて、アルティナディアの後を追うように収縮し始めたブラックホールの中へ体を滑り込ませた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます