すべては秘めたる言葉ゆえ
からいれたす。
すべては秘めたる言葉ゆえ
先輩と一緒に捜査の担当になった事件は暗礁に乗り上げていた。そんなときも会話の中などで、解決策を模索するのは職業病といえるのかもしれない。
「先輩。そういえば、いろんな業界で独特な不思議な言葉ってありますよね」
「あー。いわゆる業界用語な」
中年のイケオジの先輩が渋い声で私の雑談に応じてくる。
「ですです。例えば私たち警察だとサツとか」
「警察関係の隠語はドラマとかの影響で知られすぎちゃってもう、一般用語みたなもんだけどな」
「たしかに、ホシとか、タレコミ、パクる、ムショ、ブタ箱、ヤクとかもう隠語の意味を成さないですもんね」
「そうだな、広く深く理解されるという意味では悪くないが、困るときもあるわな」
よく取材されてるとも言えるし、そうでもないとも言える事柄もおおいけれど、実際の警察もそんなに遜色はないようにも感じるところだ。
「まぁ、ソレに限らず日本人ってのは省略とか置き換えとかすきすぎるから、おじさんにはわからない言葉も増えて苦労もするがな」
「まだ、まだ若いじゃないですか。あ、ぴっしますね」
「それもある種、隠語みたいなもんだろ」
「あ、そうですね。ぴ。でも実際問題としてドアにセキュリティカードを近づけて解錠しますよーとは面倒くさくて言えませんから」
「まぁな」
取調室への出入りも管理されるようになり、より堅牢性がましているともいえるかもしれない。入った部屋の中にはひとりの男性被疑者が椅子に腰掛けていた。
「で、それがこれからの取り調べに関係あるのか?」
「えっと、この『バラ園未解決事件』の被疑者の彼の取り調べのことなんですけどちょっと気になった事がありまして」
「ほほう、なにかハッケンしたのか?」
「発見というか、なんといいますか。これって被疑者が付けた事件名なんですよね」
被疑者に視線をおくりながらも、先輩との会話を続ける。
「そうだな、ほかにあまり例をみないパターンだが被疑者が事件名を声高に叫んでいたからな」
「そうなんですね」
それを聞いた、私の灰色の脳細胞が暴走気味に言葉を紡ぎ出した。
「なんだ? とりあえず、気がついたことがあったら言ってみろ」
「バラの隠語ってわかりますか? これってBLつまりボーイズラブのことでして、園は援助交際ですよね」
「ですよねって、知らんがな」
「つまりですよ。被疑者の男の子は初めて男同士の援助交際をしようとして、未使用のおケツをですね、ごにょごにょ」
「おまえはアホだな。それがどうやったらバラ園で死者が出た事件になるんだよ」
「だから、
「腐ってるだろ?」
「な、なぜ、そんな専門用語を!」
「刑事さんすいません、そこまでわかってしまったんですね」
「まじか!」
「えっ。冗談だったのですが」
「えっ」
「えっ」
こうして事件は解決したとかしないとか。そして私の腐れ疑惑だけが残ってしまった。
すべては秘めたる言葉ゆえ からいれたす。 @retasun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます