ラスボス戦からはじまる異世界ファンタジー

いおにあ

第1話 老夫婦、60年ぶりに魔王討伐の旅に出る

~ラスボス戦~


 魔王デスディアを、ぼくたちはいよいよ追い詰めた。


 手持ちのライフはゼロに近い。だが、あと一息で倒せる。

「でやあぁぁぁぁ!!奥義・超真聖・閃雷の竜撃!」


 ぼくは最後の力を振り絞り、奥義を発動させて、聖剣の一撃を繰り出す。

「ふっ……ならばこちらも……禁断の魔奥義・邪神の慟哭!!」


 ぼくの奥義は、鋭い閃光の矢となり魔王デスディアを貫く。


 ――だが、禁断の魔奥義から放たれた漆黒の稲妻も、同様にぼくの身体を貫いていた。


「ぐはっ……!!」

 ぼくは血を吐き、その場に倒れる。まずい、ライフがゼロだ。


 ――しかし、それは相手も同じだ。魔王デスディアは、ぼくの最後の一撃ですでに倒れている。


「……相討ちには持ち込めたな……」

 ぼくは満足げに呟く。


 まずいな。視界がぼやけてきた。そりゃそうだな。もうライフゼロだもんな。


「待って!お願い!!真奥義・母神の無限の慈愛!」

 その声がした瞬間、途切れかれていたぼくの視界が、ぱぁぁぁぁと一気に回復する。


「……あれ?」

 ぼくは体を起こし、自分の全身を見る。


 デスディアの攻撃を受けた傷は、どこにもない。


 ライフが満タンにまで回復していた。


「良かった!生き返った!」

 ぼくの相棒――イリアはガバッとぼくに抱きついてくる。


「あれ?イリア、もう魔力は底をついていたんじゃ……」

「だから!魔力を使わない真奥義を今までずっと温存していたの!一生に一度しか使えない真奥義を!ライフがゼロになっても甦らせる、真奥義を!」

 イリアは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら語る。


「そっか……ありがとう、イリア」

 心からの感謝をイリアに伝える。


「良かったあ!本当に良かった……ユーマが死んじゃったらどうしようと思った!」

 取り乱すイリアを宥めながら、ぼくは言う。


「大丈夫だよ。魔王は倒れた。ぼくは生きている。もう世界は平和だよ」

 ぼくはイリアに言う。


「イリア……結婚しよう」

「え?」

 イリアの顔がみるみる赤くなる。


「ヒーラーの君と魔王討伐の冒険を共にしてきて、ずっと考えてきたんだ。生涯の伴侶には君しかいない、て。勇者として戦うぼくをずっと助けてくれた君しかね」

「え、その……あの……」

 イリアはどぎまぎしつつも、返事をしてくれる。


「うん、いいよ……私もずっと似たようなことを考えていたし・・・・・末永くよろしくお願いします!」


 こうして、ぼくらは結ばれることとなった。 


 ぼくらは結婚して、魔王のいない平和な世界でいつまでも幸せに暮らした。



 いつまでもいつまでも。



 ~それから六十年の月日が流れた~

 

 魔王討伐時、十五才だったわしとイリアも、七十五歳になった。

 わしとイリアは今も一緒に暮らしている。わしら夫婦は四人の子と十人の孫に恵まれた。来年には初めての曾孫も生まれる。


 今は、王都郊外の静かな田園地帯で余生を過ごしている。


 ある日のことじゃった。朝食を取り終わり、新聞に目を通していたら、ドンドンと家の戸を叩く音がした。


「はいはい、今出ますよ」

 わしが玄関の戸を開けると、近所の顔見知りの少年・ヒックがいた。


「おじいさん、大変なことになりました!」

「どうした?また泥棒にでも入られたか?」

「違います!魔王デスディアが復活したんです!」

 六十年ぶりに聞くその名に、わしは驚く。


「なんじゃと?あやつはわしらが確かに息の根を止めたはずじゃぞ」

「誰かが禁断の魔法で復活させたらしいんです」

 なんと……いったい誰じゃ、そんなことをしたのは。


「そこで、おじいさんおばあさんにぜひデスディアを倒していただきたいと、国王陛下から直々の通達です」

「なんじゃと?何かの間違いではないのか。わしら老人じゃなくても、いくらでも元気な若いのがいるだろうに」

 しかしヒックは首を振る。


「おじいさんたちが魔王を倒して六十年間、この世界はずっと平和でした。すっかり平和ボケしてしまったぼくら若者世代は、武器の使い方ひとつ知りません。だから、魔王軍と戦った最後の世代のおじいさんたちに、希望を託すんだそうです」

 なんと……そういうことか。


「あなた、行ってあげましょ」

 いつの間にか側で話を聞いていたイリアばあさんは言う。


「こんなに一生懸命お願いしているんですもの。それに、今度生まれる曾孫には、平和な世で育ってほしいですしね」


 こうして、七十五歳のわしら夫婦はふたたび魔王討伐の任務に就くことになった。


 家の地下室で埃を被って眠っていたアイテムたちを、わしらは六十年ぶりに出す。

「はあ……おじいさん、光の聖剣がすっかり錆びています」

「ばあさんのローブもすっかり虫に食われてボロボロじゃの」

「ポーションって消費期限ありましたっけ」

「七十年ものじゃからの。すっかり変質して、どんな効果を発揮することやら」


 こうしてわしらはオンボロの武器アイテムを装備して、旅に出ることになった。新品に買い換えたかったのだが、世が六十年も平和だったので、武器を作れる者などもうおらんのだ。


 わしは錆びた聖剣、壊れた光鉄の鎧を着る。イリアもボロボロのローブと朽ち果てた魔法の杖を身につける。ポーチには、最早得体の知れないアイテムと化した薬やらなんやらがいっぱいじゃ。


「さあおじいさん、行きましょう」

 そういうわけで、わしとイリアは再び旅に出た。

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