第31話 祭壇の下の戦い

「さてと、来たか」


 都武が祭壇に足を踏み入れる。

 すると、玉座の上に汀良田先輩が座っているのがみえた。


「……どうして、ここに?」

「決まっているだろう。お前がここに来るって知っていたからだよ」

「……聖の奴から聞いたんですか。全く、面倒な奴だ」

「さてと、オレの役目は二つ。一つは聖が井荻を連れてくるまでお前を食い止めることだ」

「それでは、もう一つは?」

「出来る事ならば……お前を倒すことだ」


 ハハハ、と笑う都竹。


「僕を倒す? どうやって。あなたの持っていたツルバミは今もなお修理中でしょうに」

「……」


 両手を広げ、高笑いを始める。


「そう。僕はこのタイミングを待っていた。祭壇が見つかり、そして強力な戦力であるアンタレスとツルバミが使えなくなるこの瞬間を」


 眼鏡をかちりと上げ、指をぱちりと鳴らす。


「そうすることで……コイツを倒すものがいなくなる」


 空に魔法陣が展開される。

 現れたのは――体全体が青く細身で、頭に触覚が生え、両手に丸い剣を持った、アンタレスと同じくらいの大きさのロボット。


 その名も、シリウス。


「そいつは、前に井荻が倒した……!」


 汀良田は玉座から降り、身を乗り出す。


「ええ、ロボット工学部に眠っていたので修理させてもらいましたよ。そして僕たちが使えるようにしました」


 違うのは、装甲のいたるところに札が張られ、糸が天に向かって伸びていること。

 関節からはバチバチと雷を放ち、わずかにうごめいている。


「まあ、機械の方は専門ではないので、無理やり制御させてもらいましたが」

「あれは……魔力で外部から力を加えて動かしているのか?」

「ええ。まるで操り人形のように。外から糸を垂らしてね」

「スマートじゃないな」

「でも、強力でしょう? だってこの質量が動くんですから!」


 シリウスは、腕を振るい、その手を汀良田に向かって伸ばす――


「だが――オレがツルバミなしで何もできないと思うなよ?」


 汀良田は、空に向かって手をかざす。


「はっ、減らず口を――! やれ、シリウス!」


 そうして、シリウスはこぶしを振り下ろす――


 だが、その一撃は受け止められた。


「来い――大剣・牙月!」


 召喚されたのは、ツルバミの持っている大剣―—

 そして両手でそれを持った汀良田は、大剣を振るう。

 ガチリ、と音がする。大剣と拳がぶつかり合う音だ。


「はぁ!」


 跳ね返されるシリウス。一歩、二歩と後ろに後退し、姿勢を立て直す。


「なるほど。確かにあなたも普段の武器があるでしょう。ですが……それでシリウスを倒せますか?」

「やってみるさ。それが先輩として後輩のやったことの責任を取るという事だ」

「出来る物ならば―ー!」


 再び、シリウスが走り出す。


「やってみせるさ――!」


 大剣を振りかぶる汀良田。

 そうして、また巨大な音を立て拳と大剣がぶつかりあう――


 ***


「ギャラクティックーハート切り―!」


 梁瀬が手に持っている杖を刃に変化させると、ぐるりと周囲に向かって振り骨をばらばらにする。


「ちょっとー! ぶつかりそうだったんだけどー!」

「ごめんごめんなの!」

「やれやれ、そのくらい避けなさいっての!」


 管埜が空中をくるりとバク転しながら飛び、井出渕に向かって蹴りつける。


「来ましたねえ! 略式、反射陣!」


 魔法陣を敷くと、蹴りの反動がそのまま跳ね返され、後ろに吹き飛ばされる。


「そう簡単にはダメージを入れさせてもらえないみたいねえ!」

「一撃たりとも入れさせませんとも!」


「――!」


 静かに、狙撃が飛んでくる。


「ちぃ!」


 飛んできた弾丸を、ナイフで何とかはじく。

 びきり、とひびが入った。


「油断一瞬怪我一生……残心はしっかりと、ね」


 遠くから狙撃した永居が、物陰に身を隠す。


「くっ……だが一本程度!」


 と、その時であった。


「ならば……多方向からではいかかでしょう?」


 何本もの鎖が、地面から生えてくる。


 そしてそのすべてが井出渕に向かっていく――


「なんだこれは……防御陣!」


 札を放つと固いシールドの鎧に籠る。


「あらあら……対処されましたか」


 現れたのは白いロリータ服をまとった少女……マリア。

 そのスカートから、何本もの鎖が生えている。


「ですが……その状態から何かできますか?」


「プラズマー砲!」


 悠城がプラズマを連射し、骨を殲滅する。


「シールドを撃ち抜く……!」


 レーザーが、シールドに向かって放たれる。


「そこから……一点突破! プラズマ砲!」


 そこと同一の場所に凝縮されたプラズマ砲が放たれる。


「くっまだまだこの程度じゃ壊れねえ……!」


「それなら反射陣は貼れないわね……ブースト、オン!」


 靴から炎を放ち、加速しながら管埜の蹴りがシールドに向かって放たれる。


 衝撃。シールドと蹴りが拮抗する。


「それではこちらからも攻撃を食らわせていただきましょう……」


 マリアが、鎖を一本にまとめ、シールドに向かって直撃させる。


「がぁ!?」


 防御陣が破壊される。


「はぁ……!」


「ちぃ!」


 左手のナイフで蹴りをいなす。


「とりゃーなの!」


 背後から梁瀬が武器を持って突撃してくる。


「見え見えですよ……!」


 すぐさま見破り、右手のナイフで防御する。


「守ったね……なの!」


 すると、梁瀬の手に持っていた武器が杖の形状に変化していく。


「ギャラクティックーハートーバアアアアアスタアアアア!!!!」


 その先から放たれたのは……極太のレーザー。


「なぁ――反射――間に合わな――」


「ちょっと、梁瀬ちゃん……ああもう!」


 すんでのところで、大ジャンプでレーザーを回避する。


「く、くそぉ……ぐわああああ!!!」


 井出渕の体が、レーザーで焼かれていく。


 とおく、遠くの空まで吹き飛ばされ――地面に着地した時。


 そこに残っていたのは、中に井出渕の入った、クリスタルだった。


「何とかHPを削り切ったわね……」

「このクリスタル状態なら身動きは取れないなの」

「ですが……まだ一人、といったところです」


 マリアは、ロリータ服を掴んで、一礼する。


「我々が向かうべきは……ダンジョン。そこにまだ敵がいるはずです」

「……ワタシは、なんとか現代ダンジョン部のシステムを取り戻せないか頑張ってみるわ。そちらの方は……」

「うーんうちもそっちに参加した方がいいかなー」


「それでは……自分の方はダンジョンへ向かわせてもらいましょう」


 永居が、マフラーをはためかせながらどこからか降りてくる。


「花ちゃんもいくなのー、いったい何をたくらんでるのか確かめたいからね!」

「こちらも参加させていただきましょう……それでは、いきましょうか」


 梁瀬・永居・マリアの三人がダンジョンへと向かっていく。

 果たして、その先に待つものとは。

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