第39話:人魚姫の秘密1

「七海様について……ですか」

 翌朝、優里は早速七海の元へ行こうとしたが、ふと気になって愛子の元へと寄った。彼女もこの家にいたならば多少は七海のことに詳しいと思ったためだ。勿論今日は奏人も優里にべったりとついている。

「分かることを教えていただきたくて」

 愛子の部屋も優里と同じようにサウスポート家の空き部屋だ。おそらく他のメンバーもまた同じように小さなベッドしかない部屋に押し込められているのだろう。

 奏人は一晩中優里の元へいたようで、起きたときに「あの時好きといったことについて弁解を……」と言われたが、自分も奏人のことが好きで、好きといってもらえて嬉しかったと話すと、何か難しい話でも聞いた後のような複雑そうな顔をされてしまった。何かまずいことを言ってしまったのかと思ったが、それ以降その話題には触れられなかった。

 改めて、暫く黙り込んでいる愛子を見つめていると、ようやく彼女は重たい口を開いた。

「そうですね……まず、七海様は私の元主人でした」

「え?」

 確かに愛子はサウスポート家についていたと言っていたが、その相手が七海というのはなんという偶然だろう。

「七海様はどのような方なのでしょうか」

 優里が尋ねれば愛子は暫し考えた後、

「とても人見知りをする方でした」

 と答える。

「人見知り……ですか」

「はい。活気あふれるこのサウスポートに馴染めず海にばかり遊びに行っていました。その時彼女についたあだ名は人魚姫、です」

「人魚?」

 それは、優里が先日読んだファンタジーに出てきたものだった。足が魚の尻尾になっている人間。それが人魚のはずだ。

「サウスポート家の人間は身体の一部を動物に変化させることができます。持続時間は一時間程度ですが……七海様は足を魚にすることで自由自在に海を泳がれていたのです」

 将斗も昨晩自分の手を獣の手に変えていた。彼らはどちらも自分の能力を好きなように操っているのだろう。

「私は用心棒としてなるべく七海様の側にいるように心がけました。しかしいつもこっそりと海に行かれているので難しく……ある日目を離した隙に海へ行った七海様は、声を失ってしまいました」

「それが……愛子さんの失態、ですか」

「はい」

 愛子は大きな失敗をして親に勘当された。けれどその事件がきっかけだったとするならば。

「ではそれはドラゴンテイルのせいで、愛子さんの所為ではないじゃないですか」

「……当時、将斗様が私のことをひどく糾弾し、七海が事故にあったのは私の所為だと触れ周りました。私も自分がついていなかったのが原因だと思っていましたが……彼はドラゴンテイルの所為だというのを隠すためにも異常なまでに私を責めたのかもしれません。それでも私が目を離してしまったというのは事実です」

 だから愛子は優里から目を離すのを怖がっていたのかと納得する。そして、愛子の手を掴んだ。

「では、一緒に七海様のところへ行きましょう」

「え……?」

「元用心棒の方が一緒に来てくださった方が人見知りをする七海様も安心かと思いまして。お話を聞いた感じ七海様と愛子さんの間には隔たりなどないでしょうから」

「わ……分かりました」

 優里の言葉に愛子は頷く。そしてベッドに置いてあったカチューシャを付け直した。

 以前の愛子ならもう少し抵抗もしただろうが随分と丸くなったものだ。

 優里は奏人と愛子を連れて三人で七海の部屋へと向かった。

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