最後は自分も撃ち抜いて

蓮見 七月

第1話

 目を開けると、人が消えて空が赤くなっていた。

 


 エイプリルフールに始業式って、学校に対する皮肉かしら。七瀬ななせかなえはそう思いつつ、教室に置かれた自分の席で頬杖をついた。

 クラスメイト達は今日も楽しげに雑談している。体育会系の男子グループ。地味な女子の中規模グループ。男女混合のオタクグループ。そして、緑川聖子みどりかわしょうこ率いるカースト最上位のいじめっ子グループ。

「オイ、金持って来いって言ったよなぁ!」

 かなえの席より3個後ろ、佐藤さとうチカの周りが1番うるさい。大声で下品な事を言ったのは坪田つぼたイクミだ。太い指でチカの髪を引っ張っている。

 太っていて顔も良くない坪田イクミが、なぜ緑川聖子のグループに入れたのか、かなえには分からなかった。

「ご、ゴメンなさい」

 丸眼鏡を落としながら怯えた声でチカが言った。おかっぱ頭からパラパラと髪が抜け落ちている。

「ごめんで済むと思ってんのか。なぁ! オイ!」

 陸上で鍛えた脚で椅子のパイプを蹴ったのは春崎はるさきアキナだ。サイドを刈り上げた短い髪に、健康的に焼けた褐色の肌。何より逞しい足が男子から人気だった。

 アキナの隣でゲラゲラ笑っているのがメンヘラツインテールの月岡つきおかモエ。身長が低くてゴスロリっぽい。

 リーダーの緑川聖子はチカの正面で腕を組み、いじめの様子を無言で見ている。

 彼女がクラスを支配するのは当然の事だとかなえは思った。

 中学3年生にして身長は172㎝もある。肩まで伸びる前髪無しのミディアムヘアに、切れ長の目と高い鼻。白くて長い足も魅力的だ。モデルの様な美貌を持ちつつ、運動や勉強も常に上位。アキナよりモテるし、モエより可愛い。そして人を惹きつける雰囲気がある。彼女は生まれながらの支配者だ。

「チカさん。あなたが居てくれて助かるわ。ストレスの捌け口があるって最高ね」

 クラスメイト全員に聞こえるように聖子が言った。クラスメイト達はクスクス笑った。かなえだけは笑わずに、ショートカットの黒い髪を人差し指でいじくっている。

「ねぇ。かなえもそう思うでしょ?」

 後ろから声を掛けられて、ほんの一瞬かなえは背筋を緊張させた。しかし反応を悟られないよう、すぐに聖子に歩調を合わせた。

「ええ。そうね」

 かなえはまた髪をいじり、目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る