第30話 一難去ってまた一難

 朝を迎えて、僕はセレナちゃんと手を繋いでジアリス町に戻った。


 みんなが出迎えてくれて、誰一人怪我する事なく無事で嬉しい。


 がしかし。


 僕は急いで町の南と北に作った壁の通り道に大きな城門を作る事にした。


 今回の事件で一番大きいのは、町に人が自由に出入りできるように城門を作らなかった事が一番の問題だ。


 アクア様のおかげで魔物が寄り付かないからこそ、安全だと思っていたけど、こうして悪意に一度でも晒された以上、それをそのままにしておきたくはない。


 急いで両側に大きな城門を作り、開け閉めは内側からしか出来ないように作った。




「キャンバル様。町の被害報告ですが、町や領民にケガはなく、連れ去られてしまったセレナだけが被害を受けた形となります。屋敷の炎も事前に防御魔法を付与していたり、アクア様の迅速な対応もあり、火災の被害は一切ありませんでした」


「爺。僕は怒っている」


「はい。私めも同じ思いでございます」


「やられたからにはやり返したい」


「かしこまりました。すでにその準備も整えております」


 こうなったからには、あの白銀商会とやらに乗り込んで文句を言ってあげないとね!


 爺と一緒に屋敷を出て準備してくれている荷馬車に捕虜となったグレインと護衛達を見つめた。


 その時。


 バロンくんが血相を変えてこちらに向かって走って来た。


「ば、バル――――キャンバル様!」


「バロンくん。どうしたの?」


「た、大変です! き、北に!」


 北?


 バロンくんが指差す北側の空を見つめたけど、特に何も見えない。


 ただ、北側って僕達にはあまり関わる意味がないというか――――隣国のバルバギア王国があるから交流も行っていないんだよね。


 バルバギア王国は元々うちの王国と仲が悪いので、常に戦争状態と聞いている。


 ジアリス町は戦略的に意味がないため、最前線の町だけどバルバギア王国も攻めてこないと有名な町だ。


 だからこそ、町を守る軍もなく、放置され続けている。


 バロンくんがここまで血相を変えてここまで来た事。


 まさか…………。




「ば、バルバギア王国軍が…………攻めてきました!」




 その場にいた全員が不安を覚えるのは、当然のことだった。




 ◆




「今一つ情報を整理しておく。現状ジアリス町の北側にはバルバギア王国、南側に進むとインハイム辺境伯領の領都があるんだよね」


「その通りでございます」


「でもジアリス町の周辺は荒れ地だし、その北側も同じくらい荒れ地であるから、バルバギア王国も町や村は作っておらず、ただ捨てられた土地となっている。でいいのよね?」


「はい。ジアリス町は辛うじて噴水の存在があり町を保てたのですが、ここから更に北に進んだ場所には安息の地は存在しないので、バルバギア王国も進軍ルートとしては使わない状態でした」


「本来ならここから西にある国境沿いが戦争の部隊だよね?」


 爺が大きく頷いて答えてくれる。


 と、今の状況を整理すると、隣国バルバギア王国とインハイム辺境伯領は長い間戦争を繰り返していて、その戦場になるのはジアリス町から遥か西に進んだ肥沃な大地が広がるマルセロ地域の覇権を争っている。


 なのにその軍隊が何故かジアリス町を経由して攻めようとしている。


 普通に考えれば、ここを経由して領都を攻めるのは良い策にも思えるけど、実はこれはあまり良い策ではないのだ。


 その一番の理由はジアリス町の北に広がっている荒れ地。


 そこには強力な魔物が多数出現するので、もし軍隊で移動するものなら、そちらの被害も大きいとされている。


 両国がジアリス町の北方面を通らない一番の理由はそこにあったはずだ。


 なのにそれを無視してこちらに攻めて来た現状を考えると、そうしてでも成し遂げたい事があるのだろう。


 爺から教わった戦術書の事からヒントを得るのなら――――


「敵は少数精鋭でこちらに攻めてくる」


「はい。間違いないと思いますが、戦争なのでそれなりの人数、恐らく100人くらいの規模かと」


 大きい戦争になると、千人単位だったり、国の威信をかけた戦争ともなると一万になる時もあるという。


 それを鑑みると100人は少ない人数だが、ジアリス町にとっては大きな兵力なのは間違いない。


「ん~今から逃げる?」


「それもまた良い作戦だと思います。辺境伯様も緊急事態として不問となさるでしょう」


 でもどうしてか、この町で楽しく過ごしているみんなと一緒に逃げるのが凄く嫌に思える。


 ん…………。


 その時。


 屋敷の外から僕を呼ぶ大勢の声が聞こえた。


 爺と顔を合わせて、屋敷から急いで外に出ると――――おじさんズを擁する領民達がみんな集まっていた。


「キャンバルさま~おでたち、戦うだ!」


「っ!?」


「ごごはうでたちのまぢだべ! 絶対に譲らないべ!」


「みんな…………」


 おじさんズの隣からバロンくんが前に出る。


「キャンバル様。俺達は魔法が使えます! 今ならあの城壁・・の上から魔法で応戦するのも出来ます! 昨日の一件で俺達はこの町を守りたいと思いました! だから戦わせてください!」


 すぐにみんなから「そうだそうだ!」と声が鳴り響く。


 さらに僕達を見守るアクア様を見た。


「みんな…………分かった! それにアクア様も僕達の仲間だ! 仲間を見捨てて逃げたりはしない! 全力で戦おう!」


「「「「うおおおおお!」」」」


 こうして、僕達だけでバルバギア王国との戦いが決まった。

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