第20話 恵の雨は奇跡をもたらすみたい

 次の日。


 早速ジアリス町の新しい土地に果物の苗を植えたり、畑を耕して種を植えたりした。


 壁も完成したので、僕の魔法は別の所で使う事にした。


 本来なら畑を耕すのは凄く大変な事らしいんだけど、僕の大地魔法があれば耕す事なく、魔法で畑を作れたりする。


 早速増えた土地の半分を魔法で畑に変えていった。


「キャンバル様! お疲れ様です! これ、アレク様からの差し入れです」


 畑作りを終えて、木の下で涼しい風に当たっていると、セレナちゃんが大きな瓶を一つ持ってきてくれた。


 中には水と氷が少し見えていて、レモンが一欠けら入っていた。


「ありがとう!」


 コップに氷水が注がれ、一気に口に流し込む。


 冷たい水が身体の中に広がって、ほんのりレモンの香りがとても美味しいと感じる。


「働いた後のレモン水は美味しい~!」


 身体に染みわたる~。


 のんびりとセレナちゃんと休憩していると、畑仕事をしていた住民の一人が慌ててこちらに走って来た。


「キャンバル様!」


「どうかしたの?」


 爺から、領主である以上、威厳があるため住民達には基本的に呼び捨てにしたりするよう強制させられている。


「畑を見てもらいたいんです! 奇跡です!」


 奇跡?


 セレナちゃんと一緒に畑に向かうと、そこには――――


「綺麗~!」


 畑って、土を耕してそこに種を植えてあとは植物が成長するまで待つのが普通だと思ったんだけど…………目の前には綺麗な緑色の葉っぱが沢山並んでいた。


「あれ? 種を植えたばかりじゃ?」


「そうなんですね。それが植えた途端、急に育ってこうして葉っぱが出てきて、もしかしたら実がなるんじゃないかとみんなでソワソワしていたところなんです」


「ほえ~元々こんなに早く育つの?」


「い、いえ。本来なら20日くらいは掛かるはずなんですが、ここまで早く成長するのは初めてみます」


 凄く早く成長してくれたのは間違いなさそうだね。


 アクア様なら何か知っていそうだから、セレナちゃんと一緒に噴水に向かった。




「アクア様~」


「お~バルくん。どうしたの~」


「畑を作って種を植えたらすぐに葉っぱが出てきたんですけど、もしかしてアクア様の力ですか?」


「半分はおいらの力だけど、半分は違うかな~」


「半分は違う?」


「そうなの~ここは元々良い土を持っているんだけど、水が行き渡らなかっただけなんだ~だからおいらの力が加わって元々良い土がさらによくなったからだと思うよ~」


 元々良い土か……そういえば、アレクお兄ちゃんがうちで育った野菜は美味しいって言っていたね。


 アレクお兄ちゃんが料理の腕が良いだけでなく、素材まで良いからこそ、毎日ご飯が美味しいのかも知れない。


「アクア様。ありがとうございます! これなら住民達も毎日美味しい野菜を食べられそうです~」


「それはよかったの~おいらも毎日美味しい魔石を食べられるし、毎日聖水雨を降らせてあげる~」


 ご機嫌なアクア様はまた嬉しそうにジアリス町に恵みの聖水雨を降らせてくれた。


 とても不思議な雨で、服とか肌は濡れないのに土はしっかり濡れてすぐに緑色が広がり始める。


 それともう一つ効能が分かって、傷を負った人の傷が回復するというメリットもある。


 アクア様は個人的な回復は行わないという事だけど、こうして定期的に恵みの聖水雨を降らせてくれれば、軽い傷は簡単に治せるのも住民達にとっては良いところだね。


「アクア様、何かこうして欲しいとかありますか?」


「ん~魔石も毎日貰ってるし~強いて言えば、おいらが自由に町を動かせるようにして欲しいな~」


「自由に? ん~」


 アクア様はずっと噴水のところで顔を覗かせて町を眺める日々を送っている。


 洗濯だったり水を汲みにくる住民達と話すことはあっても、アクア様が直接遊びに行くことはできない。


 というのも、アクア様の分体も本体も水がない場所には行けないらしくて、一瞬外に出るのはできるけど、長時間は厳しいみたい。


 …………僕の記憶が正しければ、鯨って哺乳類のはずで、水の外で呼吸して生きていると本に書かれていた。それが本当なら、鯨も水の外で暮らすのは容易なはず。


 現にアクア様は常に顔を噴水から出して町並みを眺めているのだ。


 以前聞いた時、アクア様は「水の外に居続けるのはできない」ときっぱり言っていたので、鯨とかではなく何らかの理由があるんだろうと思う。


 そんなアクア様を考えると、向こうでの自分を思い出した。


 部屋の中で自由に歩けるが、部屋からは出られず、ただただ窓から外の世界を眺める。やってきた母さんや看護師さんと話すだけ。


 よし、決めた。アクア様に少しでも自由になってもらうために、何かしら考えよう。


「ん~」


「キャンバル様?」


「どうやったらアクア様が自由に移動できるか~ん~ジアリス町が水浸しになれば…………でもそれじゃ僕達が住めないしな」


「そうですね。水はすぐに土の中に吸収されてしまいますから」


 水はすぐに土の中に吸収される?


 僕はおもむろに噴水の水を手ですくい、地面に落としてみる。


 落ちた水がみるみる地面に吸収されていく。


「これでは水浸しにもできませんね…………」


「…………アクア様?」


「あい~?」


「噴水の水って、どれくらい出てきますか?」


「どれくらいか~バルくんが建てた壁くらいの高さで海にできるよ~?」


「つまり、出そうと思えば、噴水はそのままに沢山出せるんですね?」


「そ~だね~」


 そこで僕は一つある事を思いついた。

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