第19話 アクア祭
「アクア様~キャンバル様が壁を作ってくださいましたので、土地の件をお願いします!」
「いいよ~!」
噴水に住み着いた白いクジラ――――アクア様は今では町民達にとってマスコットのような存在になっている。
神様だから難しい存在かと思われていたけど、アクア様の天真爛漫な性格もあり、町民達の簡単なお願いならすぐに聞いてくれた。
例えば、洗濯。
今までだと、洗濯ものを噴水に持ってきて手で洗濯していたのだけれど、最近はアクア様の魔法による洗濯が行われている。
毎日おじさんズが魔石を最低限20個は取って来てくれるので、アクア様も魔力が余っているそうだ。
それを使って、町民達の洗濯ものを魔法で洗濯してあげる。
魔法は大きな水玉を作って、その中に洗濯ものを入れるとグルグル回して綺麗にしてくれる。
早いし、綺麗になるしで今では屋敷の洗濯もアクア様にお願いしてたりする。
そんなアクア様と一番仲良くなっているのは、間違いなくセレナちゃんだ。
普段から魔石を食べさせる係なのもあるし、セレナちゃんはいつでも明るいのでアクア様と相性も良いみたい。
セレナちゃんから頼まれたアクア様の全身から、淡い水色の光があふれ出した。
洗濯魔法の時は使う魔力はかなり少ないらしくて、光りが溢れる事はないんだけど、今回は大掛かりというだけあって、ものすごい強い力を感じる。
「聖なる恵の聖水雨~!」
アクア様の力で背中に集中し――――噴水のように水しぶきをあげた。
上空に広がった水しぶきが一気に空に広がり、町に降り注いだ。
不思議なのは、雨みたいに降り注いでいるのに、服や肌が一切濡れない。
空から降りて来る恵の聖水雨は、濡れることなく地面に落ちていく。
たった数秒。
新しくできた壁の内側はまだ荒れた大地が広がっていたのだけど、少しずつ緑の芝生が生え始めた。
それがどんどん進み、気が付けばジアリス町は緑に溢れる地面に変わっていった。
「これでどんな植物も元気に育つ土地になったよ~!」
「わあ! ありがとうございます! アクア様」
「ううん~こちらこそ、毎日魔石をありがとうなのだ~バルくんもいつもありがとう~!」
アクア様が僕にも可愛らしいヒレを振ってくれる。
今日はジアリス町の肥沃な大地を手に入れた記念すべき日として、アクア祭という祭りの日と制定し、毎年祭りを行う事になった。
◇
「キャンバル様。綺麗ですね」
「うん。僕、こういうのやってみたかったから嬉しいよ~」
すっかりお日様が降りても、噴水の隣で大きな焚火を起こして明るい中で、初めての祭りを楽しむ町民達。
僕とセレナちゃんはその姿を眺めながら、アレクお兄ちゃんが作ってくれた美味しい祭り料理を堪能している。
「まさか、私なんかが祭りを楽しめる日が来るとは思いもしませんでした。キャンバル様。本当にありがとうございます」
「え~私なんかじゃないよ? セレナちゃんはいつも頑張ってるし、アクア様とも仲いいんだから凄いと思うよ?」
「そうなのだ~セレナは凄いのだ~」
後ろで一緒に祭りを楽しむアクア様もそう話す。
「私…………本当に昔からダメダメで、この町に
ジアリス町に住んでいる人達は少し事情がある人が多いと爺から聞いている。
セレナちゃんの場合、この町にたった一人で住んでいる。
なぜ一人かというと、王都で両親から売られてしまって、最終的にジアリス町の労働力として買われて、ここに住まざるを得ない状況であるという。
それはセレナちゃんだけじゃなくて、ここに住んでいる住民の大半はそういう事情があって、昔のキャンバルさん時代にこの町から逃げられなかったのも、そういう理由らしい。
北側に行くと別国なんだけど、そこに亡命しちゃうと奴隷落ちになるらしくて、今よりももっと酷い扱いにされるから、ずっと我慢して生きるしかなかったみたい。
「セレナちゃんは頑張り屋だし、凄く可愛いんだから、これからもっと楽しい事もいっぱいあるよ~! 僕も領主として頑張るからね!」
「か、可愛い…………」
あれ? どうしたんだろう?
少し顔が赤くなっている気がするけど、焚火が強すぎるのかな?
それはともかく、キャンバルさんがどうだったのかは知らないけど、僕は自分がやりたい事をやりたい。ジアリス町をより良くしたいと思う。
「ねえ、セレナちゃん」
「はいっ!」
「これからもジアリス町のために、手伝ってくれる?」
「っ! も、もちろんです! 私で良ければ、キャンバル様の隣にずっといます!」
「そっか! それは凄く嬉しいな~!」
爺とジェラルドさんがいて、アレクお兄ちゃんとメイドさん達がいて、アクア様とセレナちゃんも一緒にいてくれるとこれからも楽しみだ!
最後にセレナちゃんから踊りに誘われて、初めてだけどやってみたいというセレナちゃんと一緒に焚火の隣で踊った。
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