Umiくらし 1-上町

Nono The Great

第1話

荷物を持って近くのバス停までの坂道に差し掛かると、もうそこには、「はやく、はやく!!」と言わんばかりの緑色のコミュニテイーバスが待っていた。坂を登り切り、バスのステップに足をのせると、運転席から、「どこでおります?」の声。どこまでいけるバスなのかを尋ねると、ここから岬の端にある港まで、電車の駅2つを通っていくルートだと分かった。

バスの居心地が悪ければどちらかの駅で降りて交通手段を変更すればいい。バスから見える景色が悪ければ…、乗ってくる客が気に入らなければ…、道が混んでいたら…、

きっと良くない選択だろうと思っていた中、運賃表に目をやると二度見した。そこには、【運賃先払い100円】と書いてある。どこまで行っても?と聞けば今から4,50分かかる終着点まで100円だという。

今、教室の黒板に【100円でできる有意義なことを一つ書きなさい。】の問題が書かれていたなら、あなたなら何と答えるだろうか。一つの模範解答は、子供の権利を守るためにユニセフに寄付する、だと思うのだけれど。

初めての乗車なので、トライアルツアーとして、街並みをみながら気に入ったところで降りてよいか尋ねると、【あなたニュービーなのね?】と、ばれたらしく、「こないだ早朝釣り船で出かけるときに撮った動画どう?」と信号待ちで携帯画面を見せられる。そこには、フィッシングギアをもってニコニコした運転手が乗り合いの釣り船に乗っていて、そのそばをイルカが泳いでいる動画だ。この辺りでは有名な野生の親子イルカで、以前、船かジェットスキーに近づきすぎて、背中がズル剥けになり、傷が今も痛々しく白く残っているらしい。そういえば、【親子イルカに会いに行こう】と銘打った地元SUPツアーのアドを専門サイトで見たのを思い出した。

しかし、100円でどこまででも連れて行ってくれるこのバスの運営はどうなっているのかを考えていると、次の停留所でこの古い街で今もずっと住み続けている美代子85歳くらいのおばあちゃんが乗ってきた。今日は今まで週一回のところ、今月から週2回になった整形外科の病院に行く日なのだと運転手とのチャットで分かった。その後も漁をやめて15年、長男に後をまかして気ままにしてたら耳が遠くなった米吉82歳みたいなおじいちゃんや、これからお友達と電車乗って百貨店の喫茶店で旦那に内緒で豪華なランチを食べそうな明美73歳らしい人も乗ってきて、みんな運転手と仲がいいのである。

窓からは、水平線のキラキラした海に貨物船が遠くに見える島の手前をゆっくり動いている。白いイワシ雲が広がる真っ青な空には時折帰ってきた飛行機が着陸態勢に入って低い空を悠々ととんでいるのも見える。しかも幹線道路から外れた古い街の古い住宅地を縫って走るので道は混んでいなかったが、私は2つ目の電車の駅で降りることにした。いや、降りて、行かなければいけないのである。

それは、今わたしは、家出の最中であるのを思い出したからである。

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