母船少女—マザーシップ・ガール

ガミル

第1話

なぁ聞いてくれ……聞いてくれ……聞いてくれ。

オレは遂に知ってしまったんだ。

ああ……知りたくはなかった。何故オレはあの時あんなことを……



*** *** ***



結論から言おう。隣の席の氷室零花ひむろれいかは宇宙人共の運び屋だ。いや、正確には母船と言った方が語弊がないかもしれない。

見ろ、またあいつの首筋から『奴等』が出てきている。


そいつは有り体に言うなら昆虫に似ていた。大きさは大体2~3センチくらい。肉眼でゆうに見える大きさだ。二対の蠅に似た汚い翅。そして極めつけは人間のそれに似た肥大し剥きだしになった大脳、その下には蜻蛉に酷使した複眼。そして歪に伸びた規則性を持たない3つの口。

最初は数ミリにしか満たない奴等は氷室の首筋から出て、大気に触れると膨張し、今もオレの目の前でホバリングしている。


最初に言っておこう。オレは病気じゃない。確かに病気を疑ったことはある。当然だ。この不可思議な現象はオレにしか見えていないみたいだからな。2回目にこれを目視した時、オレは心療内科の受診を決意した。色んな精神的なテストを受けたし、脳の検査も受けた。だが、結果はどっちも異常なし。思春期特有のストレスからくる一時的な気の病で片付けられた。

冗談じゃない。どう考えても普通じゃないだろう。何なんだこれは……これはまるで


「ねぇ……もしかして、君見えてる?」


こちらを振り返ることもなく氷室が話しかけてきた。

何がだ。と白を切ってみる。当たり前だろ、馬鹿正直に打ち明けたら何が待っているか定かじゃない。知らないふりをしといた方が賢明ってもんだろ


「今日放課後時間ある?ま、なくても作ってもらうけど」


今度は真っすぐオレの見据えて冷たく言い放つ。


その剣幕に圧倒されたオレは従う以外の選択肢を剥奪された……様に感じた。


結局オレは小さく「分かった」と答えるほかなかった。



*** *** ***


結局、放課後を迎えるまで氷室とは一言も喋ることはなかった。お互いに口数が多い方ではないし、それは断然不思議なことではない。だからこそ、驚いた氷室がオレに話かけたことが。最も氷室はオレのことについてある程度察している様子だったから、それも致し方ないのかもしれない。ただ、それだけマズイ状況に立たされているという事実がオレの心を鬱屈にさせる。


下校時刻を知らせる予冷が鳴り、オレがそそくさと帰宅準備を整えているとオレより先に片づけを終えた氷室がオレに紙ぺらを渡してきた。


「おい、これは何だ?」


「いいから受け取って。書かれた場所に時間通りにくること。いい?」


「……ん? おい、待てこれ、隣町じゃねぇか!」


「絶対にくるんだよ、来ないと……」


それだけ言い切ると、氷室は台風みたいに教室を後にした。行かないと何が待っているのかは分からないが、きっと酷いことになるんだろう。

オレはあまりの理不尽さに紙ぺらを握りつぶし、小声で思わず「クソ」と呟いた。




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母船少女—マザーシップ・ガール ガミル @gami-syo

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