It's still the same old Story

@Jack2022

第1話 終末

 大きな代償を背負いながらの戦略核兵器も、EMP攻撃も、ミサイルも、新型ウイルスの散布も、サイバー攻撃も、さらには各国軍隊の核を含む最新の攻撃すら敵を駆逐するには至らなかった。いかなる点においても敵は人類の英知を凌駕していた。時に2047年。ここに人類の運命は潰えようとしていた。


 里美の心臓が早鐘を突くように鼓動を高めた。日本は、世界は、地球はこれで永遠に無くなってしまうのか。人類が築いてきた記憶も歴史も文明も、最初から無かったかのように「無」に帰してしまうのか。それは宇宙の長い営みの中では一瞬の瞬きだったのかも知れない。しかし、それにしたってこんな無常があるだろうか。こんな理不尽な終わりを迎える定めだとしたら人類の7百万年は何のための進化だったのか。すべての人類が、初めて同時に「恐怖」という名の行き止まりを感じた。それは残酷だがゆるぎない事実だった。


 ある者は教会に集まり祈りを捧げた。神は確かにいた筈ではなかったか。それともこれが神の御意思なのか。


 ある者は未来を投げ捨てて自死を選んだ。他のものに不条理に命を奪われるならと、その選択権を自ら行使したのだった。


 ある者はあらゆる資産をトランクに詰めたが逃げ場がないことに気づいた。もう地上には人類の生存が許可される場所は無かった。


 だが、ほとんどの人々は家族で居間に集まり、ただ抱き合って終わりの時を待っていた。いままでありがとう。ごめんね。愛しているよ。


 テレビは世界各国の都市の上空より伸びた無数の光の触手を映し続けていた。その悪魔の触手を。瓦礫の荒野と化した東京都ではテレビクルーとレポーターたちが、人類の最後の1秒まで記録すべく使命を全うしようとしていた。光の触手が次つぎにビルを飲み込んでいく。その様子を為すすべなくただ世界に配信していたのだ。その記録を再生するのは次の世代の生命体になるのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る