11.魔法の杖

 私は無事に闇属性のゴブリン魔石を取得できた。


 これでプレゼントを贈る前段階はクリアした。

 次のステップに進む。


 そこで、またしてもおじいちゃんに相談することにした。


「持っている魔石を杖か指輪にしたいんだけど」

「そうじゃの。魔術師たるもの、魔法具は必要じゃろう」

「魔法具……」

「そうじゃ。指輪、スペルブック、10センチくらいのリング魔法輪、そして魔法の杖」

「なるほど」

「何にするかは比較的自由じゃ。持ち歩きやすさを選ぶなら指輪か杖じゃな」

「なるほど」

「どうする? ちなみに自分や知り合いが倒したモンスターの魔石で杖を贈る、という習慣が王立学院にはあるのお」

「おぉお。じゃあそれに倣って、杖を贈ろうかな」

「それもいいじゃろう。工房ならわしが知っているから手紙を書こう」

「ありがとう、おじいちゃん」


 こうして手紙を書いてもらった。


 サフィアちゃんに秘密にするのもいいけれど、たぶんお願いして作るところまで一緒に見たいというと思う。

 だから先にサフィアちゃんを呼びに行く。


「(かくかくしかじか)、ということで魔法の杖を発注に行こうよ」

「うん、いくいく。見たい」

「そういうと思った」


 私とサフィアちゃんで並んで歩く。

 場所は商業街区の裏通りだった。


 この辺は人通りもそれほどでもなく、また看板がちょこちょこあるものの、販売店のように大きな販売用スペースなどはない。


「ここかな、ギャミラス魔法杖店っと」

「そうだな」


 一見すると外観はただの家だ。


「ごめんください」

「はーい」


 お姉さんが出てきてくれる。


「あの、自分で採った魔石で魔法の杖を作ってほしくて」

「はい、よく王立学院の生徒がやっているアレですね。わかります、わかります、うふふ」


 ちらっと私たち2人を見て、笑うお姉さん。


 王立学院は王都にあり、満9歳で入学して12歳の3年間で卒業する。

 貴族籍の子や商人や裕福な一般人など多くの生徒が通うらしい。


 うちは地方都市なので、そういうのはない。

 代わりに都市学校という初等教育機関があるけれど10歳からの1年制で簡単な読み書き計算、初級魔法程度しか習うことがない。

 得るものがないので、ここには行くつもりがない。


 王都へ行って学院に通う予定もなかった。

 どうせおじいさんの話に毛が生えた程度の知識しか身につかない。

 実技と友達は魅力的だけど、さらに庶民に対する風当たりがそこそこ強いと聞く。


「でも、うちは一見さんはお断りしていて、その……以前トラブルとか多くてね」

「紹介状ならあります」

「見せてもらえる?」

「はい」


 ボルドおじいちゃんの紹介状を渡した。


「ボルドじいねえ、まだ生きていたんですね。なかなかしぶとい」

「お姉さん、心の声が漏れてますよ」

「あら、失礼。確かにすごい人の紹介ね。これなら十分信頼にたるわ」

「ありがとうございます」


「杖のは在庫があるわ。魔石、見せてもらってもいいかしら」

「はい」


 私はお財布に入れておいた、リクウミウシの緑の魔石、風属性。

 それからゴブリンの黒の魔石、闇属性。

 この2つを渡す。


「サイズは平均的ね。これなら十分嵌まるわ。ちょっと留め金の調整が必要なの」

「ほーん」

「それから色が澄んでいて、とても綺麗だわ。よほど一撃だったか、アタリだわ。これなら十分実用になるわ。低レベルの魔物だけど、この魔石は中級レベルに匹敵するの、よかったわね」

「それはよかったです」

「あの、それから、お金がね。杖の一番安いのはパインの木で半金貨1枚。オークの木で金貨1枚。そしてトレントの木で金貨4枚なのだけど……」

「ええ」

「払えるかな? 高いよ?」

「大丈夫、です」


 お財布を再び覗きこんで、入れてある金貨8枚を出す。


 ここ2週間ほど、毎日のように高品質の薬草を販売した資金がある。


「おぉぉっ、あなたたち案外、お金持ちなのね」

「ちょっと最近高値で売れるものがありまして」

「なるほど」


 お姉さんはどんなものだろうという顔をするが、さすがに詮索まではしてこなかった。


「在庫で処理しちゃうから、20分くらいでできるけど、見ていく?」

「はいっ」

「……はい」


 私が了承して、隣でサフィアちゃんが深くうなずいた。


 奥の工房に通してもらう。

 そして棚から杖を選ぶ。


「これがトレントの杖ね。選んでいいわよ」


 全部で12本、同じようなものが並んでいる。

 よしあしがあるのだろうか。


「能力的には違いなんて分からないから、多少の大きさとか曲がり方とか、お好みで大丈夫」

「分かりました」


 私はなるべくまっすぐな枝を選んでみる。

 逆にサフィアちゃんはちょっと曲がっているものを選んだ。


「それとそれね、はい」


 枝を持って先の工作室へ入る。

 先端に魔石を設置して、金属の留め金をハンマーで打ち込んでいく。


「実はこの留め金が大銀貨4枚分。安い杖だと値段のほとんどは実はコレなの」

「へぇ」

「これがミスリルね」

「ミスリル……」

「ミスリル」


 後ろからも小さく復唱する声が聞こえる。

 当たり前だけど、ミスリルなんて見たことがない。


 見た目は鉄と同じように銀色に輝く金属だ。

 違いは分からない。


「安い工房だと、鉄の留め金を使うところもあるんだけど、魔力伝導率が全然違って、ダメなのよ鉄じゃあ減衰しちゃうの。詐欺みたいなものだわ」

「おっおぅ」

「見習いの量産品のおもちゃみたいなのなら、そうすることもあるけれど、実用的ではないわね」

「はい」


 お姉さんから豆知識を教えてもらいつつ、作業は進んだ。

 もう一つの杖も留め金を固定する。


 留め金で終わりではないらしい。


「天におりますエシス母神様。現世に飛び交う精霊達よ。我が作りしトレントの魔法杖に、類稀なる最上のご加護をお与えください――ブレス祝福


 あ、祝福の魔法だ。私は聖水を作るのに使ったけど、こうやって使われているところを見るのは初めてだ。


 金色の粒子が飛び交い、杖に吸収されていく。

 お姉さんは色っぽく杖の真ん中にキスを落として、魔法を収束させた。


「はい、1つ完成」


 同じ作業をもう1つすると、両方の杖が完成した。


「どうかしら?」

「はい」

「ありがと」


 それぞれ杖を受け取る。


「ちょっと魔法は発動させないで、魔力を流してみてくれる?」

「分かりました」

「分かった」


 右手で杖を握る。

 長さは30センチくらい。


 魔法の杖は吸い付くように手になじんだ。

 そして魔力を流すと、魔力が杖と手とを循環し始める。

 そしてそれがどんどん大きくなっていく。


「ちょっ、ちょっとタイム、やめ、はい大丈夫だから、魔力抑えてください」


 そういわれて私たちは必死に魔力を抑える。


「魔力を流しすぎだわ。そんな魔法使ったらおうちが壊れちゃうわよ」

「ごめんなさい」

「ごめん、なさい」


「でも、二人ともすごい魔力があるのね、本当にすごいわ」

「「ありがとうございます」」


「これも商売冥利に尽きるわね。こちらこそ、ありがとうございました」


 こうして私たちは魔法の杖を手に入れた。

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