9.外食

 薬草採取へ行って大銅貨5枚稼ぎつつ、もう一度高品質を集める。

 しかし2回目となった今回、代金は金貨1枚に減っていた。


「ハイポーションはそれはもう高額なのですが、1回目は特別価格だったのです。ほかの材料の希少性を考慮したものです。それをほぼ毎日3本ずつ生産できるとなると、さすがに1個当たりの希少性が下がってくるため、この値段になってしまいます。ご了承ください」

「なるほど」

「しかし1日の量が増えないのであれば、これ以上は下がらないと思うので、安心してください」

「分かりました。ちなみに一日高品質な薬草20本納品する、と言ったらいくらですか?」

「そうですね、相場次第なのですが、現在15本で金貨1枚ですから、金貨1枚と大銀貨2枚といったところでしょうか」


 15本で10万パソなので1本0.66万パソだ。

 同じ値段であれば13.3万パソになるので、少しだけ下がっている。


 しかし草原の薬草の鑑定では、高品質なものを見分けるのは3分の2くらいの確率なので、もっとたくさん鑑定しないといけない。

 それは残魔力から言って無理ではないけどギリギリすぎて、よくはない。


「そうだ、庭のヒール草」


 庭のヒール草は以前5つ中4個が高品質だった。

 試しに庭のヒール草を次々鑑定したところ、9割以上が高品質と判定されたのだ。


 これはたぶん、聖水で育てているからだ。

 あれからもちょくちょく聖水での水やりを続けていた。観察するために。


 春の初めはまだ小ぶりだったヒール草も、今ではボウボウに生えている。


 ということで庭のヒール草をたった22本くらい、鑑定するだけで20本の高品質な薬草を手に入れられる。

 量が少ないから、そうそうなくならない。


「ちょっとずるい仕事だね」

「そうね、なんだか悪いわ。でも残りの時間で服を縫いますね」

「うんっ」


 お母さんは服を縫う内職もしている。

 空き時間は主にそれをするらしい。


「私は、何をしようか」

「サフィアちゃんと遊んできたら?」

「そうする!」


 あれからうちのご飯も、小さなベーコンが少しだったのが、一口サイズのベーコンが多めに入っているようになった。

 お肉を焼いたものとかも、たまに出てくる。


 お茶も買ったものがあったので、食生活はだんだん変わってきた。


 土曜日。

 土曜日は特別な日だ。


 多くの人が外で外食を楽しむ日、と決まっている。

 土曜日も仕事がお休みの人は金曜日の人もいるけれど、うちは土曜日だ。


「外へ食べに行きましょう」

「やったっ。おじいちゃんとサフィアちゃんも誘っていい?」

「いいわよ」


 ということで久々の外食になった。


 低所得者街区を通って商業街区へ向かう。

 中流くらいの格式のドレスコードとかがない、飲食店に向かった。


「……こんばんは」

「へい、らっしゃい」


 挨拶が下町風だ。これはテーブルマナーとかにうるさい店ではないということだろう。

 本当に助かる。

 そういうものはさっぱり分からない。


 お客さんも一般庶民風の人が多い。あとは冒険者も何人かいる。

 お酒を飲んでいる人もいるけれど、ここは"酒場"ではないのだろう、酔っ払いは皆無だった。


 酒場はお酒を飲むだけ飲んで、そして女の子を買う、そういう店なのだ。

 普通の飲食店との境目は曖昧で、間違って私たちみたいな女の子が入ると、ひどい目に遭う可能性があるらしい。

 おじいちゃんによると、酒場はカウンター席が多く設置されているそうだ。

 この店にはそもそもカウンター席がない。


 娼婦の人ならドレスを着ている。

 店員の女性たちはメイド服、ウェイトレスの格好だった。


 ここは飲食店で確定だ。


「ふぅ」


 私は警戒を解いて、ご飯を食べるモードにする。


「えっと、何食べようかな」

「そうね、たまにはステーキとか頼んでもいいわよ」

「うーん」


 メニュー表を見て、悩む。

 一食2000パソ。以前なら高くてビビるお値段だ。


「注文お願いします」

「はーい」


 ウェイトレスのお姉さんが早歩きで近づいてくる。

 急いでいても走ったりはしない。教育されているらしい。

 淑女が走るなんてはしたないもんね。


「ご注文をどうぞぉ」

「えっと、あの、オーク肉のシチュー煮込みセットで」

「あ、わたしも」

「お母さんも同じもので」

「わしも一緒でいいぞ」


「ではオーク肉のシチュー煮込みセットを4つですね。ありがとうございます」


 私たちはうなずく。

 お姉さんがニコッと笑顔を浮かべてから、一礼して下がっていく。

 笑顔が素敵だった。

 あとメイド服もなんだかかわいい。


 私も体が成長したら、一度は着てみたい。


『ご主人様、メニューは何にいたしますか?』


 みたいにかわいく、お淑やかに言ってみたい。

 それでご主人様をメロメロにするのだ。

 あははは、似合わないかなぁ。


 しばらく憧れのメイド服を眺めていたら、料理がすぐに出てきた。

 煮込み料理は仕込み料理だから、よそったらすぐなのだろう。


「お待たせしました。オーク肉のシチューです」


 お姉さんが2人で、4人分を持ってきてくれる。

 両手で持ってるのが、何気にすごい。

 バランスとるのが難しそうだ。


「いただきます」

「「「いただいます」」」

「おいちぃーーー。ナニコレ、おいしいぃい」


 どんどん口に吸い込まれていく。

 柔らかく煮込まれたお肉はホロホロで、とっても美味しい。

 それでいて食べ応えがあって、もぐもぐひたすら食べる。


 とっても美味しかったです。

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