4.目指すはハーブマスター
さてハーブマスターを目指すと決まった。
私はおじいちゃんにもらったお小遣いを握りしめて、お店に向かった。
薬草も茶葉もハーブと呼ばれるものの一種なのだ。
「すみません、ハーブティーの葉っぱください」
「はいはーい。あら、可愛らしいお客さん」
ここはお茶屋さんだった。
喫茶店ではなくて、茶葉を売っているお店だ。
主に扱っているのはハーブでアップルミント、カモミールなどが並んでいる。
レモンティーもあった。
レモンの木なら家にあるし実がなっているので、自家製もできそうだ。
主要な葉っぱを一通り教えてもらった。
といっても10種類だろうか。
あとはレモン、オレンジ、ローズヒップなどの香料系があり、組み合わせることもできる。
「それで、これがヒール草茶、ヒールティーね」
「ヒール草のお茶、ですか?」
「そうね。オレンジとミックスしたものが人気なのよ」
知らなかった。
私は家と草原を往復ばかりして、仕事がないときはおじいちゃんの家にばかりいたから、外の世界をあまり知らない。
雑学にはそこそこ詳しいつもりなのだけど、もっと一般的なこととなるとからっきしだった。
もっともっと、いろいろ見てみる必要がある。
魔法のヒール、ヒール草、ヒールポーション、薬草茶。
どれも似たような効果がある。
しかし一番効果が高いのが魔法、次がポーションだ。
乾燥ヒール草は、お茶にもポーションの材料にもするそうだ。
ヒール草茶は、普通に乾燥ヒール草を細かくしたものをティーバッグに入れたものなので、これも自家製できる。
そんな話をして、私は基本のアップルミントを購入した。
背負いの荷物袋に入れて、走って帰ってきた。
「ただいまぁ」
「おかえりなさい」
「ハーブマスターの第一歩。ハーブティーの中からアップルミントを買ってきたよ」
「それはよかったわ」
家ではあまりお茶は飲まない。いつもだいたいお水だった。
お客様が来るときに一緒に飲んだことはある。
お隣のおじいちゃん家と、反対隣りのサフィアちゃんの家でたまに飲むこともある。
うちはお茶もないほど貧乏なのだろうか。
一日の稼ぎは毎回大銅貨5枚。食費は2人分を3回でそこまで高くないと思う。
一日で大銅貨2枚いかないと思う。
日曜日はお休みで、月曜日から土曜日までの6日間は薬草採取の仕事をしている。日曜日は主に洗濯と家事の日で、お掃除と庭の手入れとかもする。
ひと月で消費が2x30で大銅貨60枚。
収入は5x25で大銅貨125枚。
でも服や籠などを買ったり、それから教会への寄付があった。
なかでも服はかなり高価だ。
教会はできるなら毎月銀貨1枚を納める決まりになっている。
怪我や病気で教会にお世話になるときも、決まりではないがさらに寄付をする。
お母さんはちょっとだけ信心深いところがあるみたいで、きっちり文句も言わずに納めている。
でも、私からしたら、ちょっと高いなぁと思うのが、正直なところだ。
そんなこと言ったら、神様に怒られてしまいそうだけど。
「ふふ。神様、ごめんなさい」
さて、お茶を淹れるんだった。
お湯は私が考えている間にお母さんが用意してくれた。
お湯はコンロの魔道具がある。魔石を消費するけれど、お値段当たりの効率は悪くない。
ヤカンのお湯に茶葉を投入する。
「ふぁぁあ、いい匂い」
すぐにリンゴのような風味のミント系の匂いが漂い出した。
「いいかなぁ、はい」
コップにお茶を注いでいく。
私とお母さんの2人分だ。
あ、それから、おじいちゃんの分も用意しよう。
「いい匂い。でも先におじちゃんのところに置いてくるね」
「いってらっしゃい」
お小遣いをくれたのはおじいちゃんなのだ。誕生日と属性判定のお祝いとして。
そうしてさっとお隣に顔を出して、戻ってくる。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「では、アップルミントティーを飲みましょう」
ちょっと飲んで、匂いを楽しむ。さらに飲んで、味も確認する。
「美味しい。なんだかよく分からないけど、美味しい気がする!」
ちょっと適当だったけど、いいんだ。
なんとなく美味しい風味がする。
オレンジとかのはっきりした味のほうが好きといえば好きだけど、こういうのも悪くはない。
さて日を改めて。
朝ごはんを食べて片づけをしたら、薬草採取に行く。
町は城塞都市になっていて、草原はその外側だ。
「行ってきます。門番さん」
城門の兵士さんの門番さんに声を掛けて、外へ出ていく。
市民の出入りそのものは自由だ。
荷馬車の通行には、通行税が掛かることになっているんだって。
治安を維持するために、変な人が入ってこないか監視している。
たまに山賊まがいの人やスリなんかもいるので、門番さんは重要だ。
そうして外に出ると、一面の草原だった。
少し向こう側には川がある。
水は綺麗で奥の山のほうから流れてきていた。
この川の水は十分飲める品質で、これが地下にしみこんで街中の井戸から水が出るという仕組みなんだって。
水量は冬は少し減るけれど、一年中枯れることはない。
「さて採取を始めます」
「はーい」
その草原で私とお母さんはしゃがんだりせずに薬草を採る。
木の棒の先端にナイフを括り付けたものを使って根本で刈る。
この木の棒を使う方法を編み出したのは私なのだけど、お母さんは腰が悪かったので、大変よろこんでくれた。
今ではその腰もよくなったのであまり関係ないけれど、また悪くなるよりは木の棒で楽をして採取できたほうがいいだろう。
私はこの木の棒は便利だと思うんだけど、周りにはほとんど普及していない。
真似するのは構わないのに、なぜかナイフを手に持つスタイルにこだわる人が多い。
大人の考えはよく分からん。
根っこごと抜かないのはマナーとして定着している。
そうすることで、またそのうち葉っぱが生えてくる。
資源の保護も大切なんだって。
それから、私は通称「薬草目」といって薬草を発見する目を持っているのだ。
これはなんちゃってスキルで、大変重宝している。
まばらに生えていて、紛らわしい草もある中、本物だけを即座に識別して、次々採取できる能力はかなり便利だった。
薬草目の私とベテランのお母さんは、近所でもかなり採取効率のいい薬草採取家なのだと思う。
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