2 ガンナーの朝

 ピチュピチュ。

 ピーチチチ。


 カーカーカー。


「ん-、むにゃむにゃ。おはようございます。トムさん」

「あぁおはよう、エルナ」


 そっと俺たちは目を覚ましてベッドから起きる。

 朝から鳥たちの鳴き声が聞こえた。今日は天気がいいらしい。

 鳴き声からスズメ、カラス、ヤマバトなどがいるようだ。


 荷物はある程度アイテムボックスに入れてある。

 普通に背負うと重量になってしまうが、アイテムボックスは不思議で重量がない。

 だから万が一、ここに戻ってこれなくても大丈夫なように必要なものはほとんど持ち歩いている。


 生まれた村なので愛着はあるが、こういう小さい村が壊滅したという噂はしばしば聞く。

 曰く、大嵐で川沿いの村が流されて全滅した。

 ゴブリンロードと大量のゴブリンに村が襲われて壊滅した。

 流行り病により村人全員が死に廃墟になった。


「ご飯できたよ」

「おう、いただきます。美味しいな」

「でしょ。エルナさんの愛情たっぷりご飯だもんね」

「お、おう」


 今日の朝ごはんは麦粥だ。

 麦を水で煮込んで、それに肉、野菜などを入れて食べる。

 それからニワトリの溶き卵を一つ。

 うちは特別製で肉が多い。


 貴重品は持ち歩く習慣がある。

 アイテムボックスがない人のほうが多い。

 アイテムボックス所有者は三十人に一人くらいだろうか。正確には分からないが、町のギルド嬢が言っていた。


 それでエルナは代わりにマジックバッグを持っている。

 マジックバッグにも等級があり、一番小さいのがリュック一つ分。

 また重量軽減の魔法が掛かっていて、基本的に重さはほとんど感じない。

 エルナのは馬車一台分くらい入る。かなりの大物だと思う。

 金貨十枚ぐらいするのではないだろうか。

 錬金術師と言っていたので、もしかしたら以前は稼いでいたのかもしれない。

 空き瓶も大量に入っているらしい。


 ただしアイテムボックスと違ってマジックバッグは時間経過がある。

 それから袋を盗まれると詰む。

 アイテムボックスは逆に本人が死亡すると中身をロストしてしまう。

 一長一短といえる。


 二人だけの秘密だけど実はエルナもアイテムボックスを使える。

 ただし容量はサイドバッグ一つ分だ。

 貴金属の指輪とかを入れているらしい。

 上級ポーションも一本だけ入れている。部位欠損が治るレベルの貴重品だ。


「銃よし、弾よし、エルナよし」

「はーい。エルナさんも準備おっけーです」

「んじゃ、出発」


 干肉をほいほいと乾燥棚から回収してアイテムボックスに入れていく。


「行ってきます」

「行ってきます」


 他に誰もいないが、家に挨拶するのが俺たちの習慣だ。


「おばあちゃん、はい。干肉少しあげる」

「あいよぉ、ありがとぅなぁ。いってらっしゃーい」


 野菜をくれる隣のおばあちゃんに干肉を少し渡して、朝のご挨拶をする。

 五枚程度だけど、おばあちゃんなら一食分くらいにはなる。


 コケッ、コケコケコケ。


「やっ、やだぁ、もう、また追いかけてくるぅ」

「あはははは」

「笑ってないで、なんでこの子たち私だけ目の敵にするのぉ」

「そりゃあ、なんか弱っちく見えるんじゃないの?」

「そうかなぁ、トムさーん」

「あーはいはい、ほら、あっちいけ」


 コケコケ。


 ニワトリを追い払ってやる。

 ニワトリは村の中を走り回っている。

 一応、どれが誰のニワトリと決まっているらしいが、かなり適当だ。

 数さえあってればいいのか、たまに逆になったりしているように見える。

 交配もかなり適当に行われている。


 ニワトリの方も適当な場所で卵を産む。

 それは村の人々のご飯になる。


 うちではニワトリは飼っていないので、お肉と交換だ。


 村長の家の前を見ると、今日は幌馬車が三台停まっていた。

 いわゆる隊商、キャラバンといわれるものだ。

 すでに下働きの人が馬の世話をして馬車と接続しているところだった。

 じきに出発するのだろう。

 おそらく大手の商会のものでお嬢様とかがいるのだと思われる。


 後は農家の家が並んでいる。朝ご飯の煙なんかも見える。

 うちと違って未だに薪ストーブのキッチンが多い。

 我が家は俺が町にいたことがあるので、魔導コンロに変更してある。


 村は木の柵で雑に囲われている。

 柵がない土を盛った土塁だけのところもあった。


 木の門はそれっぽい作りで、一応門番もいる。


「ガイ、クエ、おはよう。行ってくる」

「行ってきまーす」


 エルナも挨拶をして頭を下げて通る。


「行ってらっしゃい。トムはいいな、彼女がいて」

「お前らだって女の子の知り合いくらいいるだろ」

「んんん。サリーちゃん、ミリアちゃん、エリーちゃんくらいか」

「十分だろ。二人で三人なら」

「まぁそうだけどよ、なんていうか、違うんだよなぁ」

「そうか、ぜいたくな悩みだな」

「まあな、じゃあな、行ってらっしゃい」

「おう」


 塩コショウを利かせたタイプの干肉を数枚渡してやると、よろこんでくれる。


「ありがとう、トム。これ美味いんだよな」

「まあな、いつも門番サンキュー」

「お互い様だな」


 門を抜けると街道がずっと町まで続いている。

 定期的に馬車が通るので、草ぼうぼうにならずに済んでいる。

 人が通らない北街道のほうはもう道かどうか判別が難しい。


 この村は町と町の最短ルートの中間地点から三角形に離れた場所にあるので、あまり人が寄り付かない。

 しかし街道の最短ルート側は崖道で宿場が設置されていない。

 ちゃんとしたベッドで寝たい人は遠回りしてこちらの村へ寄ってくれる。


 今日の隊商のお嬢様か何かもそうなのだろう。


 街道から村を振り返ると、門の上の看板に『ウェルカム ジャリバン村』と書かれている。


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