白百合の園 ~いじめを苦に自殺しようとした僕ですが、死に損なった上になぜかTSしてしまい、美女・美少女たちから愛でられています~
@andynori
第1話 告白(1)
「白百合さん!」
放課後。ショートホームルームが終わり、担任が捌けたばかりの賑やかな教室に、勇気のやや上ずった声が響き渡った。
一瞬の静寂があって、徐々にざわめきが広がる。
え?
なに今のって真田?
つか、なんで真田くんが白百合さんを?
なになに?
どしたん?
まさか告白とか?
うはっ、そりゃ熱いけどいくらなんでもまさかっしょ。
などなど。
一部を除きまだ大半が残っていたクラスメイトは、さまざまな疑問、憶測を口にしながら多分に好奇を孕んだ視線を勇気と
「……何かしら。真田くん」
そんな中、白百合が帰り支度の手を止め、周囲のざわめきを断つように、抑揚のない声で勇気の呼び掛けに応えた。
室内を再び静寂が支配する。
「うっ……その……」
勇気は緊張のあまり言葉に詰まった。
「その?」
「いや、あの……」
「あの?」
勇気がどもるたびに白百合は詰問するかのように淡々と、的確にその
勇気の緊張を知ってか知らずか、それともそんなことは重々承知の上で一切こちらをおもんばかってくれるつもりなどないのか。おそらくは後者だろう、と勇気は思う。
何しろ相手は容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、文武両道と名高い学校一の美少女で、いわば学園のマドンナだ。おまけに生まれは名家で途方もないレベルのセレブ。正しく現代のプリンセス──人呼んで「白百合姫」。自分と彼女とでは生き物としての格も、住まうべき階級も何もかもが違う。
あまりにも高嶺の花が過ぎて、本来であれば勇気のようなモブ野郎にとっては話しかけるのも躊躇われるような、いと高貴なる存在である。彼女にしてみればまずもって勇気なんかにかかずらう理由がない。
そんな白百合が感情の籠らない、黒曜石のような瞳でじっと勇気を見つめてくる。おそらく一部の特殊な性癖を持つ者には堪らない、ピンポイントで刺さる視線に違いない。
(きっと「うざい」とか「めんどくさい」とかそんな風に思われてるんだろうな)
いや。
(違うか。せいぜい「なんなの、こいつ?」ってところだよな……)
以前、好きの反対は嫌いではなく無関心、と何かで聞いたことがある。
勇気は自分が嫌われるほど白百合から関心を寄せられていると思うほど自惚れていない。まあ、現在進行形で困らせてはいるだろうが。
(はぁ……)
勇気は自分がまるで道端に落ちているごみにでもなったような、酷く惨めな気分になった。いや、むしろ歩道に吐き捨てられたガムだ。あれはウザい。
と。
そんな風に考えれば考えるほど居たたまれなくなる。
いっそのこと「ごめんなさい」して今すぐこの場から走り去りたかった。
しかし残念ながらそれはできない。
これは大袈裟な話でもなければ比喩でもないし冗談でもない。
万が一やつらに、
(それだけは……っ)
勇気はきつく拳を握った。勇気を出すんだ……僕の名前は「勇気」じゃないか。
「あの……っ」
「はぁ……。真田くん、さっきから一体どうしたというの? あのそのばかりじゃわからないわ。用があるならはっきりと言いなさいよ」
「うぐっ」
ぷふっ、めっちゃ震えてるし。
なあおい、ひょっとしてあいつ……マジで白百合さんに告る気なんじゃねえか?
うっそ、あいつ勇者かよ。
キャー!
くすくす。
もたもたしているうちにまたしても野次馬たちが活気づく。
(……くそっ、みんな好き放題言ってくれるよなあ……)
内心で毒づいていると、
「……」
白百合がじろりと睨んで、彼らを黙らせてしまった。
そしてその視線が今度は勇気を捉え、
「………………」
じっと動かなくなる。
「………………」
今のうちにさっさと言いなさい。
なんとなくそう促されている気がする。
(ああっ、くそ……っ、もう自棄だ! 言ってやる!!)
勇気は意を決し、
「し……っ、白百合さん! す、好きです。僕と付き合ってください!」
あいつマジで言いやがったああああああ!!
勇気の心臓は稼働率が三百パーセントを超えオーバーヒート寸前である。
そして、
「………………」
勇気が。
………………。
ついでに
固唾を飲んで白百合絢音の答えを待つ。
そんななか、
「……まったく。悪趣味ね」
悪趣味?
白百合の口から飛び出したのは予想外の言葉だった。
しかし彼女は返す刀で、
「ごめんなさい。私、いまいち男の人とかそういうことに興味が持てないの。だから真田くん……あなたとは付き合えない」
きっちり、ばっさり、ずんばらりん。
とりつく島もなく完ぺきに、勇気の告白を見事袖にしたのであった。
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