第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その712


―――「トゥ・リオーネの神々は、言わずもがな多神教というものだった」。

「無数の神々がいて、それらの多くは自然崇拝や、運命の厳しさに根差すもの」。

「恋の神がいれば、病の神、死の神もいて、どれもが対価と共に利益をくれる」。

「もちろん完璧なご利益などない。そんなものがあれば、誰もが幸せだった」……。




―――「祖先崇拝、英雄崇拝の傾向もことさら強い。まるで北方野蛮人のように」。

「大陸北西部から伝わってきた信仰も含むため、似ているのはその影響だろうか」。

「いくつも世代をまたぐことで、これらの信仰は混ざり合い、雑種化している」。

「聖典製造が遅れがちなのは、まとまりがないからであり。学者狩りのせいだ」……。




―――「御大の教えに従って、演じるためには歴史にも詳しくないといけない」。

「大陸のあちこちで起きた戦から、多くの敗北者が難民となり、西部に逃れた」。

「あるいは罪人の流刑地としても、使われた歴史もある。『プレイレス』のな」。

「追放される悲しい悲しい負け犬の土地で、多様かつ少数の集団が乱立する」……。




―――「彼らは多くの時代において、とてつもなく不仲であったものだ」。

「貧乏人同士は、けっして巨大な組織を作れない」。

「もちろん例外はあるだろうが、基本的に無理だ」。

「巨大な組織のただひとつの共通点は、豊かさなのは言うまでもない」……。




―――「トゥ・リオーネの神々を信じる、西部の人々が団結したのは過去数度」。

「いずれも他の地域からの、攻撃的かつ苛烈で、絶望的な侵攻だけ」。

「多くの場合、『プレイレス』による経済破壊戦争に抵抗するためだった」。

「経済破壊戦争。何とも、露骨な言葉ではあるが、分かりやすいものだろう」……。




―――「どちらが先に手を出したかは、正直、歴史学者だって分からない」。

「西部が結集しようとするたびに、『プレイレス』は破壊工作か軍事作戦をした」。

「トゥ・リオーネの神々に対しての攻撃は少なく、狙ったのは主に経済活動だよ」。

「畑を焼いたり、輸出しようとする商品を焼いたり、商店を焼いたりした」……。




―――「大学半島で練られた作戦方針だったとも、軍人主体の発想とも」。

「はたまた、中海の貿易商たちの主張が招いたとも」。

「いずれにせよ、西部対策では経済をターゲットすればいいと考えられていた」。

「貧乏人をさらに貧しくすれば、結束など維持できないと。結束は金が要る」……。




―――「学者狩りを『プレイレス』側がした理由は、そこらにもあるんだ」。

「経済活動や政治学、宗教学の発展を妨げるべきだと考えられている」。

「有効だったのは、負け犬しかいない土地に仕上がった現状が証明していた」。

「政治的暗殺が横行し、学問と経済は破壊されていく」……。




―――「その地域を貧しくしようとするのなら、学生を殺すことに尽きた」。

「賢いビジネスマンに成長しそうな学生たちを、殺していけばいい」。

「それと同時に、学生たちを仕込み、磨き上げてくれる、学者たちも」。

「学生と学者は、両輪だ。どっちが欠けても、ろくな作品は作れない」……。




―――「芸術家をやっていれば分かるものだが、保守派と土着ビジネスは癒着する」。

「いい面もある。揺らぎない地盤が、古来、証明し続けた合理的な商売をさせた。

「だが、革新的、あるいは急進的、もしくはたんに左派と呼ばれる概念の敵だった」。

「新しい考えや、これまでと違った態度は、よく虐殺の対象とされてしまう」……。




―――「これを政治的な対立のせいだとか、乱暴な考えをするべきじゃないよな」。

「実際のところは、ナワバリ争いという政治か、金の奪い合いに起因する衝突だ」。

「『プレイレス』は西部の発展や変化を望んでおらず、西部の保守派も同意見だ」。

「このふたつの意志は、対立を乗り越えて、手を組み。学者と学生をよく殺す」……。




―――「農学者を演じたオレにも、その洗礼は浴びせられた」。

「家庭教師業の教え子たちが八つ裂きにされはしなかったが、オレ自身が脅される」。

「『この農地に『プレイレス』の商人が、触れる権利はないのだ』」。

「恨み骨髄。彼らはとても深い怒りに満ちていやがったのだよ」……。




―――「負け犬らしい土地の特徴で、変化を恐れてもいた。再び負けるかもと」。

「西部の保守派は、新たな挑戦や他人の可能性が大嫌いだった」。

「『拳闘で名をあげたアンタを、殺したくはない。静かに立ち去ってくれ』」。

「普通の学者や、夢を持った商人の多くが、その脅しだけで立ち去りそうだな」……。




―――「農園主たちは、『プレイレス』の大商人に農地を買収されるのを恐れていた」。

「奴隷としてこき使っている小作農たちが、買い取られてしまうことも」。

「基本的に現状がいい。もしも支配されるなら、自分たちの土地の者だけ」。

「巨大で健全なビジネスが生まれずに、悪人どもがのさばる理由もここらにある」……。




―――「エルコバが、『プレイレス』に麻薬を売りつけなかった理由も分かった」。

「『プレイレス』の一部の大商人や、政治家、軍人あたりと意見が一致するからだ」。

「『プレイレス』の脅威にならず、学問と経済を発展させすぎず」。

「負け犬としての現状維持を強いられたら、『プレイレス』は平和だからだ」……。




―――「さらに言えば、麻薬ビジネスで連中が合意しやすい利点がある」。

「オルテガなどの『プレイレス』の周辺国家が麻薬で弱れば、攻めて来ない」。

「麻薬王エルコバと、『プレイレス』は実際は仲良しだったのさ」。

「戦うべき巨悪の構造が、徐々に見えてきた。ため息と微笑、どちらもある」……。



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