第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その711
―――「居心地がいいのは、確かだった。どこもかしこも怠惰と罪に歪んだ土地は」。
「それはオレが、けっきょくのところ、罪人野郎だからだろう」。
「孤独を抱えているから、この土地の乾いた風にも合うのかもしれない」。
「オレは、古靴そのものだ。だが、この古靴は賢明な労働者の証じゃなかった」……。
―――「罪とウソにまみれている。だから、オレはこの土地に合ってしまう」。
「何だっていい。必要なのは、エルコバと、その麻薬組織と」。
「それらが復活しないように、完膚なきまで、何かを分からせることだ」。
「何かを。これが問題だ。だが、問題になった時点で、答えはいつか見つかる」……。
―――「ヒトのアタマというのは、あきらめるようには出来ちゃいない」。
「無意識の内にも、何だかんだと考えるものだ。役者をやってれば、それは分かる」。
「演じるというのは、けっきょくのところ。自我を分割して、何かをする行為だ」。
「自分じゃない自分を心に招く。そいつは、勝手に、演じてくれたりもする」……。
―――「問題は、問題になった瞬間に、ヒトの知性に敗北を始めるんだ」。
「一晩考えて、二晩目は酒場と喜劇に逃げた。次の夜は考え込まずに、酒を呑む」。
「答えは、農学者の真似をしながら、農園主の質問を受けていたときに訪れた」。
「中海独特の気候において、どんな種類の茶葉が適しているのか」……。
―――「質問の答えは、分からなかったが。エルコバ対策は分かったんだよ」。
「宗教を利用しよう。そう言えば、『蟲の教団』とだって協力関係だった」。
「あいつらも、麻薬組織の奴隷以上に、弱っちい負け犬集団に他ならない」。
「共通点を見つけた。移り気な中海の気候の種類ではなくて、悪と宗教に」……。
―――「貧困という牢獄を利用し尽くして、支配を成し遂げるものだよな」。
「だから、麻薬組織を揺るがして、根本的な治療を西部に刻み付けるものも」。
「宗教なんじゃないかとね。目には目を、歯には歯を。力には、力だ」。
「この西部に蔓延る負け犬どもを、支配できるのは悪と宗教だけ!」……。
―――「トゥ・リオーネの諸神、悪人にやさしい堕落と許しの抱擁の神々」。
「こいつらを利用すれば、エルコバの麻薬が作る幻覚にだって勝てるだろう」。
「貧しい者に訴えねばならん。聖なる教育を施し、愚かさを駆逐するんだ」。
「つまり、理論武装。聖なる言葉なら、貧乏人は耳を傾けてくれる」……。
―――「ああ。オレがこれに気づかなかったのは、神さま嫌いのせいだ」。
「裏切られた、奪われた。その種の失望が、目を曇らせていたのだよ」。
「貧乏人がどれほど祈るか、悪人がどれだけ祈りたいのか、誰より知っているのに」。
「オレは、トゥ・リオーネの神々と和解することにした」……。
―――「トゥ・リオーネの神々だって、オレに賛同するだろうよ」。
「麻薬のせいで、破滅している連中が、これだけいるんだから」。
「あれは恐ろしいものだ。心を壊して、別人に変えちまう」。
「脳みそが死んだみたいに、クズになるんだ」……。
―――「自分の子供を、オレに売りつけようとするクズが山ほどいた」。
「はした金欲しさに、自分の子供を売春婦にしようとしていやがる」。
「まともなアタマなら、やれはしない。クズは全員、麻薬の中毒者だった」。
「作るだけではなく、こいつら自身も吸ってやがった」……。
―――「酒買うよりも、安いからだ。雑草並みに、麻薬の原材料が生えている」。
「まともな作物は育ちにくいくせに、何たる皮肉なことか」。
「トゥ・リオーネの神々よ、オレに力を貸すがいい。こいつらの魂を清めるぞ」。
「なあ、同胞。未来の同胞、オレの方法が分ったかい?誰に化けるのか」……。
「た、たぶんですけど。せ、聖職者じゃないでしょうかね。教会や、し、神殿の方々は、とても強い言葉を使えますから。賢者よりも、ときには、切れ味がするどい言葉で。あ、アルトーは、トゥ・リオーネの神々といっしょになって……西部を、麻薬から救おうとした」
「理論武装に使うためには、正しいかもしれません。いや、正しいというのが、善良だという意味ではなくて……少なくとも、とても効率的だという意味で」
「は、はい。信仰心に狂った方たちは、たしかに、つ、強いんです。自分の限界ぐらい、こ、超えてしまい。やさしさ由来の、と、とんでもない行為をしてしまえるようになる」
「バーサーカーの育成法として、宗教の利用というのは適していますよね」
「ま、麻薬組織と戦うにも、適しているんでしょうか?」
「分かりません。そんな文献を、見たこともありませんから。ですが、戦い合う必要があるとしたとき、軍隊を作るには、いい旗印でしょう。トゥ・リオーネの神々が、麻薬組織を許さない、聖職者がそう断じれば……麻薬農園の労働者たちも、そうかもしれないと気づける。何せ、自分の周りは、アタマが一生、狂ったままの、壊れた中毒者だらけですから」
「し、真実を、突きつけられる」
「はい。とてつもない戦いに、なりかねません。土地を二分して、戦うことになるわけですから。でも……そうでもしなければ、『儲かる不正』を倒す道は、なかったのかもしれません」
―――「決断することで、力を得られる。役者の世界は、とくに顕著だが」。
「これは一般人にとっても、同じだろうよ。我々は、ときどき選択を強いられる」。
「選んだ道は、選ばなかった道よりも正しいかは分からないものの」。
「少なくとも、自分で愛おしく思えるものだ」……。
―――「戦うことを、選んだよ。いや、戦わせることを」。
「この土地の神々の権威を借りて、聖者を演じながら」。
「オレは、『問いかけ』へと化けるとしようじゃないか」。
「働き者たちよ、狂った豊かさか……はたまた、愛おしい貧困の道か」……。
―――「ここは、犬の土地だ」。
「負け犬たちの土地であり、選ぶ権利も奪われがちだったが」。
「魂に、一度だけ問いかけよう。どちらがいい?」。
「どちらがマシだ?麻薬の偽りと、聖なる真実/痛み。お前らは、どちらを信じる?」……。
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