第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その377


―――神さまたちさえも必死なのが、この大陸の現状らしい。

ソルジェが多くの『侵略神/ゼルアガ』と戦って来たのも、必然なのかも。

『侵略神/ゼルアガ』は、かつてこの大陸を侵食した悪神。

邪悪に歪めてくれてはいるものの、その結果として成り立ったのが現状だ……。




―――秩序の破壊者が、変革者のもうひとつの意味合いだから。

現実に疲れ果てた者たちが頼るのは、神さまたちの秩序。

宗教というものに、癒されることを望む。

そうすることで、神さまたちは祈りの力を集めて強くなっていく……。




―――それらは、古い秩序の化身みたいなものであり。

それと戦う羽目になるのは、『自由同盟』と帝国だ。

どちらもさ、ボクたちの方は古い秩序のおよそすべてを破壊することになる。

ユアンダートも、呪術を禁じつつイース教を国教にして大陸全土に広めている……。




―――悪神だろうが、それ以外の神さまだろうが。

かつてから各地にいた神々と、我々はそれぞれの戦い方で挑んでいた。

神さまたちも、殺されかけている。

ソルジェも『蟲の教団』という宗教と、その祖である『ギルガレア』を倒したばかり……。




―――この戦いは、暴力的に世界のあるべき姿を変えようと試みるものだ。

どうあれ、世界の様相は大きく変わってしまう。

『自由同盟』か帝国か、互いの力関係が近づくほどに変化の振れ幅も増していく。

何が言いたいのかというと、変化したくない神さまたちは反撃するということさ……。




―――アリーチェの出現も、そういう神さまたちの傾向を反映しているのかも。

『ギルガレア』の予告の通りに、変革の中心にいるソルジェは神々の抵抗にぶつかりやすい。

帝国と戦いながら、諸神とも戦う。

まあ、つまりは今まで通りってことでもあるのが恐ろしいところだ……。




―――いずれにせよ、すべてと戦い勝利するのがボクたちの使命なのは変わらない。

変わらないけれど、より賢く選び抜くべきだ。

大陸各地の諸宗教に対して、調査を開始したくなっている。

大切なことになるはずだ、ボクたちは宗教テロリストの抵抗を気にすべき段階に入る……。




―――『カール・メアー』の一部が、暴走して女神を創った。

これと同じように、過激な諸宗教の信者たちが同じことを企むかも。

『自由同盟』の目指す新しい形とも、帝国の押し付けている現状の価値観とも。

反りの合わない、第三勢力の妨害さ……。




―――悩める者が多い不幸な時代は、宗教への現実逃避が盛んになる。

あらゆる軍隊に、自然発生的な『占い屋』が生まれるものさ。

彼らは一種の宗教で、流れ弾に当たらないお守りを売る者もいれば。

下級兵士のために、次の作戦を占ってもくれる……。




―――長期の行軍では、徐々にこういった新興宗教が力を強めていくものだ。

戦場は、宗教テロリストの採掘場として優れている。

『自由同盟』と帝国のあいだにおける対立が強まれば、その隙間を這うように。

通常の戦に疲れ切った者たちが、三つ目の勢力として現れる……。




―――考え過ぎだとは、思わないよ。

だって、リヒトホーフェンもそうだったからね。

帝国軍を事実上裏切り、自分の思惑の達成のために兵を犠牲にした。

『自由同盟』でも帝国でもない、『神さまに頼る三つ目の勢力』そのものだよ……。




―――調べるべきじゃないとは、思えないね。

『ルードの狐』の一員として、これは全力で調査しなくちゃならない案件だ。

そして、諜報機関というものの考え方はこうさ。

「ボクたちが感じ取った危機には、敵も必ず備えている」……。




―――どうして、イース教の諸宗派のなかでも。

過激で攻撃的な『カール・メアー』を、ユアンダートはひいきにしたのか。

亜人種排除に積極的だからというのは、政治的な理由だろうけれど。

彼女たちは『帝国軍内の異端者を調査できる』、という強みもある……。




―――『血狩り』は亜人種の血を引く者を、追い出すためだけじゃなく。

それと同時に、帝国兵らが異端の宗教活動への傾倒を妨害するためにも使える。

ボクたちが想像するずっと以前から、懸念していたのかもしれない。

ユアンダートは『三つ目の勢力』の出現を、警戒していた……。




―――まあ、『厳律修道会』のように。

すでに、『自由同盟』と内通している組織もあるからね。

敵を褒めたいわけじゃないけど、一代で大陸をほとんど制覇した男だ。

異常なまでの、切れ者さ……。




――水面下で、異教との戦いを始めていたのかもしれない。

そのために、多くをこっそりと準備していた。

複雑な武器も、ユアンダートなら運用可能だ。

矛盾さえも、使いこなせるだろう……。




―――『カール・メアー』が、矛ならば。

『帝国軍のスパイ』は、盾だ。

このふたつの組織は、対立的な立場でもある。

それなのに、どちらもユアンダートとつながりが深い……。




―――でも、明確な違いもある。

暴走のしやすさは、『カール・メアー』の方がはるかに強かった。

事実、勝手な軍事介入をしているからね。

『帝国軍のスパイ』にも、結果的に被害を出してしまいながら……。




―――ボクが、気にしているのは。

『カール・メアー』を、ユアンダートが『使い捨て』にしたかったのかどうかだ。

他の宗教に兵士が傾倒するのを防ぎつつ、いつか暴走を企てたとき。

『血狩り』で『嫌われ者』になった『カール・メアー』を倒すのは、簡単だよね……。




―――別に王道かつ大多数派の、イース教の宗派というわけじゃない。

『カール・メアー』を滅ぼしても、イース教という『帝国の国教』は揺るがない。

本当の懐刀が、『帝国軍のスパイ』であったとすれば。

潜在的に矛盾し合うこれらの衝突と、その結果までデザインしているかも……。




―――血なまぐさい『カール・メアー』を、潰す。

『帝国軍のスパイ』だとか、『カール・メアー』の『血狩り』で破滅した貴族などに。

復讐の機会を与えてやれば、すべてが片付く。

『カール・メアー』が滅び、権力を与えたい者に分配することも……。




―――異端の宗教を狩り尽くして、いつか暴走する。

その末路は、『帝国軍のスパイ』による大掃除。

『カール・メアー』亡きあとに、より宗教色の皆無な『帝国軍のスパイ』を据える。

異端の狩り手として、彼らを運用するのさ……。




―――まあ、確かなことではない。

でも、インテリジェンスを武器に戦う者としては。

ユアンダートのアタマのなかに、踏み込むように探りたくもなる。

皇帝の腹を読めたなら、勝利の道も見えてくるからだ……。




―――どうあれ、今必要なことは見届けることか。

アリーチェと女神イースを乗せた赤い竜は、星の瞬く空を飛び抜け。

ちいさな町へと、たどり着こうとしている。

それこそが、レナス・アップルのいる場所らしいね……。




「あそこに、降りよう。レナスのことも、ほめてあげてね!」

『ああ。誰よりも、尽くしてくれた……この結果は、不本意かもしれないが』

「救ってあげて。それは、きっと。あなたしかやれないことだもの!」

『……うむ。女神としての、最後の使命を果たすとしよう』




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