第六話 勧誘



「人気ランキング?」


 午前の授業が終わり、授業中ほぼ眠っていたと言っても過言ではない凛月君の机を僕達は囲んだ。あれだけ寝てたのにまだ眠たいのか、瞼を擦る凛月君の目の前に、僕はぐいっとスマホの画面を見せた。

 しぶしぶ凛月君は画面に目を走らせ、すぐに興味を失ったのか目を伏せる。

 ああ、もう。これは凛月君にとっても大切なことなのに。


 この学園の生徒会、そして風紀委員は生徒による人気投票――もとい「抱きたい、抱かれたいランキング」により決められている。

 僕と透璃も最初は、何だこのランキングとは思ったけど、あながちこのシステムは理にかなっているのかもしれない。



 だって、この抱かれたいランキング一位の生徒会長、夜鷹 真琴は次期社長。家柄、容姿、成績も学園トップ。二位、三位の人達だってそうだ。自然と優秀な人達に投票が集まっている。

 ちなみに、僕と透璃は抱きたい方の二位、三位だった。

 このランキングを見た途端、二人で鳥肌が立った腕を撫で合っていたけど、今はそんなことはどうでもいい。


 問題は、抱きたいランキング一位になった凛月君だ。



「聞いて、凛月君。このランキング上位に入ったら、生徒会か風紀委員会に勧誘されるんだよ?」

「…そう」

「も~!ちゃんと聞いて!」

「そうだよ、凛月君。ここの生徒会長は…」



 色々ヤバイ、と透璃とぼんやりした凛月君に忠告しておこうとしていた時だった。



「白露君、小鳥居君達はいますか?」



 どこか心地良い声に名を呼ばれた。

 振り返ると、教室の扉がいつの間にか開いている。教室の出入口に立っていたのは、すらりとした脚の、入学式の時に見た生徒副会長が立っていた。その声の持ち主が誰か分かった途端、クラスメイト達は一斉にざわつき始めた。

 目を丸くしていると、透璃に制服の袖をぎゅっと摘ままれる。隣を見ると、僕と同じ顔がこちら見つめ、不安気に瞳が揺れていた。


「大丈夫、透璃」

「……伊織」


 落ち着かせるように透璃の頭を撫でた後、僕は副会長に見えるように手を上げた。



「はーい!僕と透璃、凛月君もここにいまーす!」



 ざわつく周囲を気にした様子もなく、副会長は僕達の前まで来ると、にこりと微笑みかけてきた。ふーん、とジロジロ副会長を観察しながら、僕は腕を組む。確かに美人だ。だけど、なーんか胡散臭い。

 これでも僕達も和菓子、洋菓子屋を経営している両親の跡取り息子。

 必死に取り繕うとする大人達も、いっぱいみてきた。副会長は絶対に腹の中で何か考えてそうだ。


「いきなり訪れて申し訳ありません。私は、三年の天羽 和泉です。今日はぜひ、君達にお願いがあって来ました」


 来た来た、きっとさっき三人で話していた生徒会への勧誘だ。副会長が一年生の教室に訪れたことが噂になったのか、扉から見える廊下の先は人だかりが出来ていた。

 僕と透璃が危惧していたのは、正にこの状況。

 わざわざ副会長が教室に出向いて、注目を集めている場で、僕達を生徒会に勧誘する。


 何がお願いだ。

 最初から、断らせるつもりは無いくせに。


「三人に生徒会に入っていただけないかと思いまして。どうでしょう、生徒会に入れば授業の免除…などと色々と融通が通ります」


 その言葉に、ぴくりと凛月君の頭が動いた。嘘、凛月君。授業の免除に釣られて生徒会に入るなんて言わないよね。

 だけど、そんな僕の不安をよそに凛月君は予想外のことを口にした。


「透璃と伊織もはいるの?」

「え、あー…副会長、それって透璃と同じ部屋にもできたり…?」

「はい、勿論。私達、役職持ちは一人部屋を与えられますから、そこは自由です」

「…じゃあ、悪くないかも」


 僕達は昔から二人で一人だった。

 起きている時も寝る時も常に一緒で、僕には透璃が必要。この学園に入って寮の部屋が別れた時は絶望していたけど、部屋が一緒になれるなら生徒会に入るのもアリなのかもしれない。

 顔を上げると透璃も、わずかに微笑んでいた。



「二人がいるなら、いいよ」



 キュン、と胸が高鳴る音が幻聴で聞こえた。可愛い、可愛いぞ凛月君。僕達には譲れないものがあるけど、傍に居る間は僕達が君を守ってあげる。



「…っ、凛月君!――入る、副会長ー!僕達入ります!いいよね、透璃?」

「うん、いいよ」

「ふふ、ありがとうございます。では、今から生徒会室に案内しますのでついて来て下さい」


 わずかに表情を和らげてから、やや柔らかくなった声で副会長は僕達に背中を向けた。少し遅れて、僕と透璃は振り返って、座ったままの凛月君の腕を左右同時に掴む。

 副会長に気を取られてて気付かなかったけど、教室中の視線が僕達に向けられていた。それは、教室を出ても続いた。


 うわ、すごい注目。

 周囲の大注目を浴びながら副会長の後を歩いていると、その視線は少なくなっていくんだけど。


 僕達が歩いてきたこの階は、生徒会と風紀委員会が独占しているらしい。だから、この階は出入りが少ない。無駄に煌びやかな雰囲気で、廊下には手入れが施された窓がたくさんある。装飾もこだわりがすごく、まるで城だった。

 そんな浮世離れした部屋の前で、副会長は止まった。





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