2章 ケルベロスの咆哮

第5話 平原ゴブリンとの戦い

「自分で歩く」とは言ったものの、やはりヒナには難しかったようだ。

 眠気に勝てず、ムートの背中で寝息を立てている。

 しかしムートは文句を垂れることもなかった。それよりは、一刻も早くアムルの町を離れる。それしか頭になかった。

「どうしてこう人間ってのは面倒なんだ」

 そう思うムートではあったものの、自らの眠気を抑えるのにもまた必死だった。

 止まって休憩したら寝る。寝たらきっとアムルの町のヤツに見つかる。そうなると面倒だった。

 担ぎ上げられ、「勇者だ! 英雄だ!」と褒め称え、その後「あの強かった野盗以上の力を持つ悪魔」として扱われる。目に見えていた。

 ムートは舌打ちし、明けの空を見上げる。

 今日の天気は晴れ。雲一つない。おかげでドワーフのいる北方山脈が夜明けの太陽を受けているところまで見える。

「綺麗だな。アマレ」

 隣を見る。しかしそこには誰もいない。当然だ。ここにいるのはムートとヒナ。アマレはもういないのだ。

 いつも一緒にいた。

 でも今はいない。

 それはとても悲しいことだ。

 自ら出したネガティブフォースに負けそうになるも、ムートはひたすら歩き続ける。

 何かの気配を感じたムートは、ヒナをそこにあった岩影におろし、剣を抜く。

「グゲゲ」

 現れたのは平原に住む、平原ゴブリンだった。棍棒を持った二匹の平原ゴブリンだ。もしかしたら三匹目がいるかもしれない。よく耳をそばだてて周囲を警戒するも、それはなさそうだった。

 ならば目の前で鼓舞の踊りを踊っている二匹を斬ればいい。

 ムートは剣を構える。

「さあ、来いよ!」

 すると一匹の平原ゴブリンがムートを襲う!

 後ろにいるヤツはアニキ分なのだろうか? 両手を組んでふんぞりかえっている。

 上段からの棍棒の一撃をムートは楽々かわし、そのスピードのまま背後に回る。そして背後から一撃を喰らわせた!

「グギャグギャゴー」

 断末魔らしき声を上げ、平原ゴブリンを一匹倒した。

「さあ、お前はどうする?」

 剣に付着した平原ゴブリンの血を払いながら、ムートはあえて聞く。

 踏ん反り返っていた平原ゴブリンは、棍棒を捨て背後から剣を取り出した。それはひどく錆びついた剣で、とてもじゃないが斬れそうになかった。しかし得意げに持っている。おそらく、ヤツの中では「伝説クラスの名剣」なのだろう。

「グギャッグギャッ!」

「まあ何言っているかわからねえけど、来ねえんならこっちから行くぞ!」

 ムートは駆ける。そして上段からの一撃を平原ゴブリンに叩きつける。

「フッ」

 とでも言いたげな余裕の表情で、平原ゴブリンはムートの剣を錆びた剣で防御する。

 平原ゴブリンの錆びた剣は、ムートの剣を防御しそのままムートを一刀両断! できるわけもなく。ムートの一撃によって、剣共々頭から真っ二つにされた。

 付着した血を払い、ムートは剣を鞘にしまった。

 ムートはつくづく思う「最近、モンスターが多いな」やはりあの魔剣士の仕業なのだろうか? まあなんでもいい。ヤツはムートが自身の手で殺す。そう決めているのだ。だから、モンスターが増えようが、なんだろうが、必ずヤツは殺す。

 決意を新たにしたところでムートはヒナを背負い直し、次の町へと道を急いだ。

「ん……」

「お、起きたか?」

「おはようムート。あら、ごめんなさい」

「ごめんなさいとか言う割に、降りようとしないんだな」

 ヒナはクスクスと笑いながら「そうね」と降りようとしない。

「ったく、女ってヤツはどうしてこう……」

 ブツクサ言いながらもムートは歩く。

 しばらくしてヒナはムートの背中から降り、二人で街道を歩いた。

 そして昼前ほどの時間には次の町、「ソニアの町」に辿り着いたのだった。

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