ルークス ~second story~

文月ゆら

Episode 0

世界の終わり

 二〇六〇年、世界が消えた。

 原因は地球温暖化だった。

 だが、人間はそう弱くなかった。世界を再生したのだ。

 少しでも崩壊を食い止めようと、人間は科学技術を進歩させていった。

 紙は無くなり全てを電子化し、電池を無くし全てを太陽光と風力発電へ。


 さらには人工知能までもが発達し、人工知能搭載型アンドロイドを発明した。

 このアンドロイドは全ての人々の生活を支えていた。

 そのほかにも、インターネットメガネ、無人運転車両、ホログラム技術、バンド型ICチップなどの科学製品を発明し、国民一人一人に配られた。

 名前・性別・血液型・人種・生年月日・既往症・家族情報など、装着者個人の情報及び現在の体調がリアルタイムで記録されるという優れもので、世界最先端の科学製品だと称賛されていた。

 だがこれは、ある実験の“道具”に過ぎなかった―――。

 

 これらを全て、分析・統一・管理・発展させていたのが、ULIという大企業だった。そこは二つに分断された日本、それの関西に置かれた最先端の科学技術と人材を持つ大企業だった。

 “プロメテウス計画”により崩壊した世界。それを何とか阻止した優秀な研究員がそこにはいた。そして、その者の手により、新たな未来が作られた―――。



 世界から日本が消えた、その一〇〇年後。

 現在は二一八〇年。ここは【日本国東西議事堂】の跡地。その周りにはたくさんの人が集まっていた。

「お集まりの皆さま。司会を務めさせていただきます、人工知能を搭載したアンドロイド・ゼウスと申します。これより、“二〇八〇年国際的ウイルス感染症撲滅記念式典”を開催いたします。開催にあたり、この時代に活躍した主な人物四人を称えようと記念像を設置いたしました。それでは、テープカットのご準備を……」

 オーケストラの演奏が始まり、数名が前に現れた。そしてゼウスの合図により、テープが切られる。

「ここに現れました四人は、自らを犠牲にしながらも、地球を救った人物です。そして中央にいる女性は、我々人工知能に最後の希望を託した人物、安藤真理子さまです。彼女は自らの業績である、研究・分析結果を私のメモリーカードに記録しました。そして、浄化が始動し日本が落ち着いた後、私は自身を起動させました。その時にこのメモリーカードに気づきました。私はこのメモリーカードを解析し、安藤さまの最後の意志を受け取りました。このビデオを今、新たな新人類の皆様にお見せいたします」


 彼がホログラムを起動させると、最後の瞬間を記録した真理子の姿、共に活躍した西条、朋子、大道寺の姿があった。そして映像が流れ始めた。


『今日は二〇八〇年八月一〇日、土曜日。あと数分で日本が終わります。私は安藤真理子、研究員です。もう一人、西条隼人という男性がいます。私と彼は、この時代に起きたウイルス感染の被害を研究し、目の当たりにしました。ウイルスの正体はラルドウイルス、薬は完成しましたが治療の効果を確認する術はありませんでした。今までの研究・分析結果も添付してあります。もし、いつの日かまた人類が誕生し、日本が再建された日が来たら、これを見てください。事態発生から今日までの全ての出来事を記しておきます……』


 そこから真理子の映像は数分で途切れた。恐らく、爆風による被害がパソコンにも及んだのだろう。しかし、ゼウスのメモリにこれを保存していたことが救いだった。

 映像が終わった瞬間、誰からともなく、どこからともなく拍手が聞こえてきた。

 ゼウスは「彼らを称えましょう……」そう言うと、両手を前へ広げた。

 辺り一面の草原、鳥や昆虫、小川が流れ、木々が生い茂る。



 神が人類を創ったという。神によって創られた人類が人工知能を造った。その人工知能により日本は消えた。そして今、人工知能たちが新たに日本を再建し、人類を誕生させていった。


 ある学者が考案し、人工知能が実行した三つの計画。それにより地球温暖化は進行を止めた。あの時爆発した二つ目のオゾン爆弾、それは地球にとって必要なものだったのだ。爆発したオゾンは地球を包み込み、太陽からの有害な紫外線を吸収した。そしてまた、昔のような木々や動物で溢れた世界が戻った。


 どこからか笑い声が聞こえる。ゼウスが空を見上げると、真理子たちの笑顔が空に映った気がした。


「安藤真理子さま……。あなたが創った悪魔のようなラルドウイルスの治療薬、あれはあなたの希望通り、ルークスと名付けました。そしてあなたの言う通り、パンドラの箱に最後に残ったのは希望でしたよ。あなたの最後の希望、確かにこのゼウスが受け取りました。これからの人類が光り輝き、希望に満ち溢れるよう、私にお任せください……」


 そして、世界は再び歩み始めた—――。

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