ライバルは最強ヒーローの娘

蜂峰文助

ライバルは最強ヒーローの娘

【1】


 日本を陰ながら守る超能力組織――『日本超能力研究室』には、『未来戦士育成部』というグループがある。

 このグループの目的は文字通り、未来の日本を守る戦士の育成だ。

 【超能力】を生まれながらにして持つ少年少女を日本中から集め、戦士として育て上げる、というのが目的だ。


 中学二年生――億岐おき 虎辰コタツは、その未来の戦士候補の一人である。


 今日も今日とて、彼は普通の男子高校生として、普通の中学二年生生活を終えた後、未来の戦士候補として『未来戦士育成部』の研修に参加している。


 本日の研修内容は、座学だ。


 超能力の近代歴史を、教壇に立つ指導員が熱弁しているのを、虎辰は眠そうに、気だるそうに聞いていた。

 座学はつまらないのだ。


「そして、今から約二十年前、超能力の歴史史上最大の闘いが始まりました。

 皆さんご存知、――アダンによる、人類の大量虐殺です。彼が創り上げた組織によって、何の罪もない人達が命を奪われました。その被害者数は三億人を超えると言われています」


 (またこの話か)と、虎辰は飽き飽きした。

 小学校の頃から何度も何度も聞かされた話だった。それはもう、洗脳とも呼べる程に。

 初めて聞いた時は心が跳ねる程興味を持って聞いたものだが、何度も聞かされると、どんな面白い話も次第にうんざりしてくる。

 ネタバレされている物語ほど、つまらないものはないのだ。


 どうせこの後出て来るんだろ? 『十二人のヒーロー』様が。


「私達、『日本超能力研究室』からも次々に名のある戦士達が散ってゆき、命を奪われていきました。相手は、並の超能力者では対抗出来ない程の力を持っていたのです。

 絶対絶命の世界……そして、人類。

 そこで、我ら『日本超能力研究室』は、とある人物達に白羽の矢を立てました。

 そう、今の君達と同じ、『未来戦士』です。

 当時の『未来戦士育成部』から選出された十二人の少年少女達は、後にこう呼ばれる事になります。

 『十二人のヒーロー』と」


 (ほら出た)と、虎辰は心の中で思う。


「この十二人のヒーロー達は、アダンの組織と闘い合う中で著しい成長を遂げました。それまで、Aランクまでしかなかった階級に、新しく『Sランク』という階級を作らざるを得ない程、強くなっていきました。

 そして見事、憎きアダンの撃破に成功したのです。

 皆さんにも、この『十二人のヒーロー』のように、強くなって貰いたい! そして世界を守って貰いたい!! それが私達、指導員の望みです」


 この後――決まって、指導員が述べる言葉がある。


「中でも……私達指導員は、。別に差別をしている訳ではありません。それは『運命』だからです」


 運命と、決まって指導員は言うのだ。

 この言葉にも、虎辰はげんなりとしていた。聞き飽きているので。


「その十二人のヒーロー達の中で、と呼ばれた戦士――万屋よろずや 太陽タイヨウ

 そんな彼の『実娘』が、彼女と同じようにあなた達に期待するのは、極々当たり前の事なのです。私達は信じてます。いつかあなた達が、世界を救うヒーローになる事を。そして、この十二人以来、誰一人として登り詰めれていない『Sランカー』へ到達するという事を。期待していますよ?

 億岐 虎辰くん、千歳ちとせ 王子オウコさん。あなた達には」

「へーい」

「はい」


 名指しで期待されていると言われた虎辰と王子が、やる気のなさそうに返事をした。

 無視をするのは流石に悪いなと思った二人の配慮である。


 虎辰がしかめっ面で、黒板に書かれた文字を見つめる。

 『万屋太陽』という文字を。


 最強のヒーローである万屋 太陽。


 虎辰は、その最強ヒーローの『娘』の事をよく知っている。

 同学年なので、よーく知っている。


 腹が立つ程――知っている。


(万屋 人愛トア……目の上のタンコブ野郎が。絶対負けねぇからなぁ、お前にはよぉ。次に、最強のヒーローになるのは、このオレだ!)


 億岐虎辰――この少年も、最強を目指しているのである。

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