エピローグ
エピローグ
「どうぞ、お掛けになってください」
バラ園にある洋館の管理人である
古い洋館ではあるが手入れが行き届いており中はとても綺麗だった。
「ファイルは読んでいただきましたか」
私はテーブルにコーヒーを出してくれている蕀に早速聞いた。
「ええ、とても面白かったですよ」
「面白かった? それで?」
蕀は笑いながら私の正面に座った。
「お聞きしますが、ヒョウさんの目的は未解決事件を解決すること、ですか?」
「もちろん、それが出来れば」
「そうですか」
蕀は何かを考えているようだった。
「ヒョウさんがこのファイルにメモしているように、世の中にはそっとしておいた方がいいこともあります。知らない方がいいことも、解決しない方がいいことも」
「……ではあなたはこの未解決事件はこのままにしろとでも?」
「はっきり言うとそうなります」
「……はははは、そうか、ははは」
私はおかしくなって笑いが出てしまった。
「いや、すまない。実は私もそう思っていたところなんだよ、ははは」
「へえ」
蕀は驚いた顔をした。
「事件を解決したところで誰かが幸せになるとは思えなかった。もしかすると、誰かが悲しむかもしれないってね」
「はい」
「何度も読み返していくうちにそう思えてきたんだ」
「俺もそう思います。全てを知ってしまうと誰かが傷付かなければならない。バラも同じです。全てを手に入れようとすれば、トゲに刺さって痛い思いをします。眺めているだけで美しいのに」
「ああ、そうだな」
若いのにずいぶんとしっかりした青年だ。
私は目の前のコーヒーに口をつけた。
「そういえば、今日はクロノさんは?」
「ん、あいつなら庭でバラを見てるぞ。今日が一般公開の最終日だから写真を撮るとか言って」
「あは、お二人なら別にいつでも遊びに来てくれていいのに」
「それを聞いたら喜ぶぞ、あいつは」
「ぜひ遊びに来てください」
「ありがとう、またくるよ。じゃあ今日はこの辺で」
礼を言い、部屋を出ようとした。
「あ、このファイルお返しします」
「ああそうだ。忘れるところだった」
「面白いファイルをどうもありがとうございました」
「いや、礼を言うならこのファイルを提出してくれた担当者たちに言ってくれ」
「はは、そうですね」
「本当にご協力感謝するよ」
私は洋館を出てクロノがいる庭に行った。
「クロノ、帰るぞ」
「はい、ヒョウさん」
人混みの中を歩いているとふと思い出した。
そういえば、このバラ園のことを聞くのを忘れていた。
ここにはどうやらたくさんの幽霊がいるそうだが、蕀は何かわかったのだろうか。
「まあいいか」
それは今度ここに来た時にでも聞いてみることにしよう。
「え? 何か言いました?」
「いや。お疲れ様」
「お疲れ様でした」
クロノは深々と頭を下げた。
完
極秘ファイル『バラ園未解決事件簿』 クロノヒョウ @kurono-hyo
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