魔王「最近人間調子乗ってない?」

山上 美智子(やまのうえ みちこ)

第1話


「見てください!あれが王都ですよ!」

「ふむ、遠目に見ても立派なものだな」


 カタコトと小気味良い音を立てて、馬車は街道を進んでいく。

 大きな声を挙げた少女は、他の乗客から視線が集まっていることに気づいて、慌てて座り直した。


 勇者と魔王の戦いから200年。それは人間と魔族の戦いが終わったことを意味する。

 青銅製の剣など、今では骨董品だ。鉄を使った製品は、庶民の間でも流通しているし、馬車にも当たり前のように使われている。

 男は目を細め、口元を緩めた。少女も釣られてニコリと笑む。

 そんな二人に、好奇心から一人の記者風の男が声をかけた。


「お二人さん、王都は初めてかい?」

「昔、一度だけ来たことがある。随分様変わりしたようだな」

「今はで賑わってる。観光にはちょうどういぜ」


 男が微かに眉をひそめる。少女も不服そうな表情で、記者風の男を見つめた。その表情に驚いた記者風の男は慌てて手を振った。


「おいおい、人混みが苦手か?祭りは俺が作った訳でもねえんだ、そんなシケたツラを向けないでくれ」

「あぁ、すまない。少し思うところがあってね。ちなみに、その魔王討伐記念祭とは誰が始めたものなんだい?」

「そりゃあんた、国を挙げての祭りだ。国王陛下に決まってるだろ。いつから始めたかは知らんがな」

「そうか、ありがとう」


 男は記者風の男に柔らかな笑みを向ける。しかし、そこには会話を続けさせない圧力があった。記者風の男は、手を軽く挙げてそれに応え、その後口を開くことはなかった。

 奇妙な沈黙に包まれた馬車は、一路王都への道を進む。





「どこを見ても、お祭り騒ぎですね」

「そうだね。とても楽しそうだ」


 露天では勇者を模した人形や、聖剣のレプリカなどが並べられている。それぞれの手作りのようで、露天によって聖剣のデザインも違っているのが面白い。

 たまに、十字の棒が刺さり苦悶の表情を浮かべた人形もある。店主曰く、魔王にとどめを刺す瞬間らしい。


 少女は不機嫌そうに眉を顰め、露天を通り抜けていく。男は困ったように眉を下げ、少女を見失わないよう付き添った。通りを抜けるまでに、おおよそ1時間ほどかかった。

 男は人通りの減った通りを見渡し、それから深く息を吐いて、少女の頭を優しく撫でた。


「お待たせ。そろそろ、行こうか」

「はい!」


 男と少女は、物陰に溶け込んでいく。誰もそれに気付かず、そして知ることもなかった。

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