【Web版】バンドをクビにされた僕と推しJKの青春リライト
水卜みう🐤青春リライト発売中❣️
発売記念SS 真っ昼間ガール
【最初に告知】
角川スニーカー文庫より
『バンドをクビにされた僕と推しJKの青春リライト』が発売されます!
カクヨム版から大幅に
ぜひ書店や通販、もしくは電子書籍でお手に取っていただければめちゃくちゃ嬉しい!楽しい!大好き!です!
また、面白かったらSNSに感想を書いて頂いたり、友達にオススメしていただけたり、ファンレターを送っていただけたりすると、僕の喜びが爆裂パニエさんです
ハッシュタグは #青春リライト でよろしくお願いします!
長くなりましたが、それではSSをお楽しみください!
――――――
「あっ、弁当持ってくるの忘れた」
その事実に気がついたのはお昼になる少し前のこと。
タイムリープしてきたがゆえ、若い身体はどうも燃費が悪い。どう持ちこたえても11時台には腹が減ってしまう。
だから早弁を決め込んでしまおうと思ったのだがこのザマだ。僕の腹の虫はNHK交響楽団もびっくりなくらい鳴っている。
「……仕方がない。今日は学食に行こう」
一応僕の通う高校には学食があるのだけれども、一周目のときからあまりお世話になったことはない。
基本的に僕の昼飯は弁当なので、学食に行く必要がないのがひとつの理由。もうひとつ、学食で食べるとなると必然的に僕のポケットマネーからお金を払うことになるからというのもある。
バンド漬けで常時金欠な僕には、学食のA定食350円ですら財政破綻の引き金になりかねない。しかし腹が減っては戦はできないので、弁当を忘れてしまった以上は学食に行くしかないのだ。
「ええっと、……うん、350円は入ってるな」
学食の支払いでお金が足りないなんていうのは超絶にダサい。楽器屋でギターを試奏するときにディープ・パープルの『スモーク・オン・ザ・ウォーター』のリフをドヤ顔で弾いてしまうくらいダサい。
だから予め財布の中身を確認しておくに限る。
昼休みを告げるチャイムが鳴ると、僕はゆっくりと椅子から立ち上がる。いつもは一刻も早く屋上に行って、一周目からの推しである時雨とランチタイムを共にする。しかし今日は学食に行かなければならなくなった以上、そんなに慌てる必要がない。
廊下を歩き、屋上とは逆方向に進んでいると、向こうから透明感際立つ女子生徒がこちらへ向かってくる。それは他の誰でもない、僕の推し兼大切なバンドメンバーである時雨だ。
彼女は僕の目の前で足を止めると、何か不思議そうな表情をして僕に話しかけてきた。
「融、どこへ行くの?」
「ああ、実は弁当を忘れちゃってさ。仕方がないから学食に行こうかなって」
「……そうなんだ」
時雨が返答するまで少し間があった。あまり表情豊かとは言えない彼女だけれども、なんとなく僕にはしょんぼりしているような気がした。気がしただけだけど。
「よかったら時雨も来る?」
「で、でも、私お弁当あるし……」
「別に学食で弁当を食べても問題ないと思うよ。そういう誰かの付き添いで来てる人、よく見るし」
「そうなの……? 行ったことなかったからわからなかった」
うちの学食は席数が多めに配置されているので、メニューを注文せずに駄弁っているだけの生徒もかなりいる。時雨がお弁当を持ち込んで学食の席で食べる程度のことは、何の問題もない。
「じゃあ私も学食に行く」
「いつもの屋上よりちょっと騒がしいけど、それでもいい?」
「それは……、なんとかする」
人混みが好きではない時雨は少し不安げな口調でそう言う。いざとなったら僕がフードファイターばりの早食いをしてすぐに学食から脱出すればいい。それを加味したら今日の昼飯は定食は食べやすいものがいいななどと僕は考え込んでいた。
学食に着くと、何故かそこには先客がいた。
「おーい、融、時雨ー! 席取っといたぞー」
フロアの中で割と端っこにあるテーブルに陣取り、僕らに向かって手を振る女子生徒。
女子にしては背が高くて凛々しい風貌ながら、制服は着崩しがちで品行方正とは言い切れないその姿。僕らのバンドでベースを担当する、片岡理沙だ。
「理沙……? どうしてここに?」
「どうしてって、時雨が融と学食行くってメッセージを送ってきたからに決まってるだろ」
そう言われた僕は、いつの間に送っていたのだろうと時雨のほうをチラッと見る。すると、彼女の右手にはスマートフォンが握られていた。
そういえば思い出したけれども、時雨はめちゃくちゃフリック入力が早いのだ。マメな性格をしているのもあって、メッセージなんかを送るとすぐにレスポンスが返ってくる。
一周目のときに音楽雑誌のインタビューで、電話嫌いなのでメッセージを送ることが多いなんて記載があったのも、あながち嘘ではないなと思う。
「まあまあ、融は早く注文に行ってこいよ。私はもうこの通り注文し終えたからさ」
「う、うん。じゃあお言葉に甘えて」
テーブルを見ると、ちゃっかり理沙の手元にはざる蕎麦が置いてあった。時雨にはもうお弁当があるので、二人を待たせないようにと僕は踵を返して注文しに行くことにした。
サボりの常習犯である理沙は、昼休みが始まる前にはもう屋上にいたに違いない。それで、時雨からの連絡を受けてすぐに階段を駆け下りて来たのだろう。
一番乗りで学食にやってきてはざる蕎麦を注文する理沙を想像すると、なんだか面白おかしくて思わず笑いそうになってしまう。
とりあえず日替わりのA定食を注文してそれを受け取ると、僕は二人の待つ席へと戻った。
「おかえり。融は定食にしたんだな」
「そうそう。これが一番コスパがいいんだよ」
学食のA定食はなんと言っても値段の割に量が多い。僕はこれで十分なくらいお腹いっぱいになるけれど、体育会系の人たちはこれに加えて弁当を持ってきていた記憶がある。10代の食べっぷりは凄まじい。
「確かにすごいボリュームだね。私じゃ食べ切れなさそう」
「私も定食が美味しそうに見えたんだけど、さすがに多すぎるなと思ってちょっと遠慮したんだ。やっぱり融は食べ盛りなんだな」
「いやいや、みんな同い年でしょ」
「ははは、確かにそうだ」
ひとたびランチタイムが始まれば、僕らは屋上にいるときと変わらない様子で談笑していた。
あのライブバトルが終わってから、二人ともずいぶんと周りに馴染み始めている。そのおかげもあってなのか、昼休みの会話も楽しげだ。
一周目でドロップアウトしてしまう運命に比べると、見違えるような学園生活だろう。
うまく運命を変えることができて良かったなと、僕は遠い目をして二人を眺めていると、それを見た理沙がすぐさまツッコミを入れてくる。
「融? どうした? そんなにぼーっとして」
「えっ? い、いや、なんでもないよ?」
「本当か? なんか変なこと考えてたんじゃないのか?」
「そ、そんなことないよ?」
理沙がニヤニヤした表情でこちらを見る。決してやましいことは考えていないし、ましてやエロいことなど1ミクロンも考えていない。
「なんだか融、おじいちゃんみたいにぼーっとしてたよ? 大丈夫?」
「お、おじいちゃん……?」
時雨に衝撃的な一言を言われ、僕は電撃を食らったかのようにショックを受けた。
「うん、うちの親戚のおじいちゃんがお茶を飲んでるときみたいだった」
「そ、そんなに老け込んでたのか……」
「でも、不思議と幸せそうな顔だったよ?」
「確かに。なんだか大往生しそうな風格だったな」
僕の中身は26歳であるので、多少大人びていると言われるのはもはや仕方がないとしても、「おじいちゃん」と言われてしまうのはやっぱり困惑してしまう。
タイムリープの荒波に揉まれて心はすっかり老け込んでしまったのかと、僕は軽く落胆してしまった。
そんなに落ち込むなよと理沙に笑われながらフォローされてしまう。今ここで酒を飲んでもいいと言われたら、度数の高いやつをクイッといきたい気分だ。
僕の老け込んだ様子を見て何かを思い出したのか、時雨はぼそっとこんなことをつぶやく。
「そういえば、おじいちゃんにしばらく会ってないかも。元気にしているかなあ」
「時雨のおじいちゃん? 一緒には住んでいないんだっけ」
「うん。遠くの街に住んでる。優しいおじいちゃんなんだ」
「へえ、時雨っておじいちゃんっ子なんだね」
そうなのかなと時雨は軽く首を傾げる。
「でも、確かにおじいちゃんのこと好きかも。お盆とかお正月とかに帰省するのは結構楽しかったし」
「そうなんだ。じゃあこの夏、お盆にまた会いに行けるといいいね」
「うん。そのときはバンドの演奏も見てもらいたいなって」
時雨は微笑んでそう言う。その表情を見た途端、僕はさっき受けたショックからすぐに立ち直ってしまった。
時雨の微笑みは万病に効く。これは間違いない。
食事を終えて二人に別れを告げ、僕は教室に戻る。次の授業の準備をしていると、さっきの時雨の言葉を思い出した。
「そういえば時雨、おじいちゃんのこと好きかもって言ってたよな……? それって……」
時雨はおじいちゃんが好きかもしれない。僕はおじいちゃんのように老け込んでいる。
それすなわち、三段論法で時雨は僕のことが好きかもしれないということではないか……?
などと、しょうもないことを考えているうちに、昼休みは終わっていくのであった。
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あとがき
販売店によっては購入特典がつきます!
アニメイト様、ゲーマーズ様、メロンブックス様でそれぞれ違う特典が付きますので、ぜひチェックしてみてください!
また、電子書籍限定のSSもありますのでこちらも要チェック!
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