晴心喫茶ファミリア〜甘美な診療録〜
言ノ葉 隅
プロローグ
プロローグ
「暑い。なんでこんなに暑いんだ。」
五分前の大雨とは売って代わり、街を歩く人々の肌を刺すような、そんな日照りが、僕の歩みを遅めていく。僕はやっとの思いで馴染みのある喫茶店へと足を運んだ。
ーカランコロンー
涼し気なベルの音が店員に入店の合図を告げる。
「いらっしゃいませ...おや?もう来たのかい?時間にはまだ早いのだけれど。」
「まぁ、ちょっと家にいたくなくて。」
僕はカウンター席へ歩いていき、この喫茶店のマスターと向かい合うように座って、「とりあえずブラックのアイスコーヒー一つ。」と、注文する。マスターは、慣れた手つきで珈琲を入れてくれる。僕は一口珈琲を口へ流し入れる。
「ところでマスター、この異常な程の暑さは何なんでしょうか、大雨だったり猛暑だったり、気分ガタ落ちです。」
マスターはおもむろに窓の外を眺めて何かを見つけたのだろう、店の入口の扉を開けて外の空気を店内に流し込んでくれる。そしてこちらに笑顔を向けると、
「たまには良いじゃないですか。ほら、こんなにも綺麗な虹が見えるのですから。」
そう言うマスターの背後には美しい虹が見えていて、心のどんよりとした気分が洗い流されるようだった。雨が降る時は雲が出る。人の心も同じもので、雨が降れば心のモヤが深くなる。それを晴れまで導いて、心に虹をかけるのが僕の仕事だ。僕もマスターと同じように外に出て一つ大きな伸びをする。そんな時今日も一人、僕も通ったこの道を歩いてくる少女がいる。
「先生。今日もよろしくお願い致します。」
マスターはそう言って僕に一礼する。僕も同じようにマスターに一礼して、店の中へ戻り、普段通り、仕事の準備を始める。白衣を羽織るのは嫌いなので、ラフな私服で接するのが僕のスタイルだ。グラスに入ったアイスコーヒーを飲み干し、いつものように声をかける。
「さて!
こうして今日も僕の忙しい一日が始まっていく。
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