ペペロンチーノが食べたい

川崎そう

昼時の飲食店街のガーリック臭は大体コレ

ペペロンチーノが食べたい


そう思ったのは世界史で第二次世界大戦の勃発、ファシズムやらムッソリーニやらの話を聞いていた時だった気がする。


戦争になると食糧は死活問題になるのはいつの時代も変わらないが、ことイタリアでは卵かけご飯的な存在であるペペロンチーノは大戦中はどうだったんだろう。と思っていたら無性にペペロンチーノが食べたくなった。


にんにくは美味しい。

すりおろして生のまま、ラーメンに入れるも良し。

スライスして揚げて、ラーメンに入れるも良し。

ラーメンににんにくは合うのだ。



だがやはり今はペペロンチーノが食べたい。


あのたっぷりのオリーブオイルにニンニク、鷹の爪を投入した辛味たっぷりの油に、茹でたてのアルデンテなパスタをぶち込み、絡ませる。

ウインナーやベーコン、青物の野菜を絡ませても勿論良い。

だがそれでもたっぷりの三種の神器は欠かしてはいけない。


さすればみるみる内に麺は艶を放ち始め、最後に塩胡椒で味を整えたら、少量の刻みパセリをまぶせは、あっという間に出来上がりだ。


ペペロンチーノの良さは先ず、その強烈なニンニクの香りにある。

皿に盛られた瞬間から、強烈なガーリックが鼻腔に押し寄せるのだ。

にんにくの匂いは食欲をとてつもなく刺激する。それをダイレクトで届けるペペロンチーノは、完全に食べる為だけのパスタだ。見てくれの絢美さ等、まるで意にも介さない。


早速頂こう。

フォークに絡ませ、口に運ぶ。

油が回転で弾け飛ぶなんて気にしちゃダメだ。

そうすると先ず、オリーブオイルの油分が唇を侵食する。

エネルギーが、カロリーが今から口の中に入るのだと教えてくれるのだ。

次にニンニクの香りが鼻を突き抜ける。

もう人前では碌に口を利けないなと悟るが、この旨味の前では瑣末な問題である。


そしてやってくる唐辛子の辛味。

にんにくとは違う、ダイレクトなカプサイシンの辛味。

それこそがこのペペロンチーノを次の一口へと駆り立てる起爆剤だ。

途中、ウインナーやベーコン等が入っていたら、そこで箸休めならぬフォーク休めに興じても良い。

だがその休息こそが次の一口、辛味を欲させる。

早く、早く次の油と、匂いと、辛さをくれと。


スパゲッティを啜り、啜り、啜らせ続けるのだ。


その中で少しだけ垣間見える、麺の中のグルテン、甘味。小麦の微かな優しさ。


辛さの中にも、優しさはある。


そんな想いを、教えを受け取って、ただひたすら、辛さの海に埋没していく。


オイルも、ガーリックも、唐辛子も、パスタが全て受け止めてくれるから、元気でいられるんだ。





数分後、皿は空になり、ヒリヒリとした舌と、テッカテカに輝いた唇が、そこにはある。

それこそが、ペペロンチーノを食べた者の、平和の勲章である。


それは、どんな軍事勲章よりも、立派に見える筈なんだ。



















「すいませんペペロンチーノ下さい」


「ペペロンチーノ?あーアレ臭いって評判悪くて廃止になったわよー」


せ、世界平和が…。



終わり

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ペペロンチーノが食べたい 川崎そう @kawasaki0510

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