第65話 訳が解らない(裏)



「やはり、そうなったか?」


「はい」


俺の名前はスベン…この街の冒険者ギルドのギルマスをしている。


◆◆◆

あの『英雄』という二つ名のS級冒険者リヒトが『化け乳女』を可愛がっているという話を以前から聞いていた。


これについての実は過去にオークマンセカンド…通称セカンドから、釘を刺されていた。


「あのなぁ、スベン、お前に言っておくことがある…英雄リヒトだが『化け乳が好きなブス専』だぜ」


「お前が人の情報を話すなんて珍しいな」


「ああっ、本来は依頼だから話はしねーが、多分いつか不味い事になりそうだから、今回は筋を曲げて教えてやる…マークをつけて置いた方が良いぞ」


「そんな大げさな…たかがブス専の情報なんか重要じゃないだろう」


「解っちゃいねーな! 良いか? リヒトは化け乳が好きだ…そしてその仲間兼恋人に化け乳のエルザが居る…そこが重要なんだ」


「重要…」


「お前は馬鹿か? 俺は『女好き』だからそこに目が行くが、もし自分の女が馬鹿にされたら許さねーよ! 化け乳は皆が嫌っている醜い女だぜ…だが、もし馬鹿にしたら大変な事になるぞ…」


「大変な事?」


「まぁな、一番問題にならない場合でも…リヒトとエルザがこのギルドから居なくなる」


S級が二人居なくなる…不味いな。


魔族との揉め事が深刻化した時に、戦える最大戦力が減る。


A級では対処が難しい案件も二人なら簡単だ。


「ああっ恩にきる」


◆◆◆


だからこそ、俺はこっそりと『リヒト達を見張らせていた』


そして今回、最悪のタイミングで…問題が起きた。


最悪のタイミングだ…


今、この街から『勇者ガイアが魔王討伐を辞める』と宣言してパーティを解散して去っていった。


今現在、勇者パーティは4人この街にいるが…この街ルーアの領主ファルハン伯爵様から引き止める様に言われている。


勇者が魔王を討伐しないなら、将来的に魔族が活発化する。


その時に物を言うのが『戦力』だ。


その最大戦力が4人もこの街に居るが、聖女マリアンは教会、賢者リラは魔道アカデミーに繋がりがあり、将来どうなるか解らない。


抱え込める可能性が高いのは、リヒトとエルザだ。


その状況でセカンドが俺に言っていた事態が起きた。


『なんて日だ!』


万が一の事が起きてはまずい…仕方なく俺はファルハン伯爵に相談をした。


ファルハン伯爵は俺にこう言った。


「簡単だ、英雄リヒトの女を馬鹿にする存在を徹底的に冷遇すれば良い…冒険者に緊急招集をかけろ…良いな!」


密かにリヒト達はのぞく冒険者全員に召集を掛け、街の実力者も集め、ファルハン伯爵を中心に話し合いが行われた。


「この先、魔族が襲ってきた時に二人が居ないとどうなるか考えよ…」


これにすぐに反応したのが商人だった。


「魔族から街を守る最大戦力の二人が居なくなるのは不味い…この街の商人は彼等に寄りそう道を選ぶだけだ…どうだ」


「ただ醜い女を迫害しないだけで、助かるなら、いや寧ろ優遇するべきだ!そうじゃないのか?」


お金を払わず愛想笑いして媚びへつらうだけで恩恵に預かれる…実に商人らしい考えだった。


「確かにもし、魔族の矛先がこの街に向かった時に居ないと困る…それに英雄リヒトは、女の趣味が悪趣味でも…人に優しく良い人だ、今迄助けて貰った人間も多いんだ…一つ位我慢してやっても良いんじゃないか?」


「そうだな、不細工な女って言うなら俺の女房だって同じだ…口に出さないだけで良いなら、そうしようぜ」


「うんだな」


街の人間もすぐにこれに賛同した。


「だがよ!ブサイクはブサイク…それを口にしちゃいけないのは可笑しいだろう?」


「あたいだってよく『オトコ女』って馬鹿にされている、こんな大事にする必要はあるのか?」


「そうだ、俺だってよく女から馬鹿にされるんだ…化け乳に化け乳って言って何が悪いんだ」


冒険者は…やはりこうか?


「良いですか? リヒト様が居ないくなって一番困るのは皆さんですよ? もし魔族が襲ってきたら、戦うのは騎士と皆さんです! S級二人居れば助かった命が一体何人散るのでしょうか? 緊急依頼の時の事を考えて下さい」


「俺も言わせて貰うぞ! あの二人はS級なんだよ!この冒険者ギルドの看板だ、もし誰かが原因で二人が居なくなったら、俺の権限で罰を与えるぞ」


「幾ら何でも横暴だぞ」


「あのな…何の為の『級』だ!上の級が優遇されるのは当たり前だろうが!」


「だが、悪口位でギルドが介入するのは違げーよ」


馬鹿なのか…此奴ら。


「それなら、それで良い…確かに『冒険者同士の揉め事は自己責任』だ。だが、ワイバーンすら倒せるリヒトがお前等に牙を剥いたらどうなるのか? 一瞬で殺されるぜ! エルザなんて剣聖なんだぜ! 此処に居る全員を相手にしても笑いながら殺せる存在だ…なぁ魔王相手に戦う勇者パーティの二人…しかも冒険者は殺しても罰則はない…俺は死人が出る前に害するな…そう警告をしたかっただけだ」


これなら解るだろう?


魔王相手に戦う人間…その力は魔族以上、それを敵に回すなんて馬鹿だ。


「まさか、リヒトが俺達を殺すのか」


「嘘だよな」


「あいつは多分しないな…だがお前等だって家族や恋人を馬鹿にされたら怒らないか? ついカッとして…それはあり得ない訳じゃない」


「ギルマス…脅かさないでくれ」


「だが、家族を馬鹿にされたら、俺も頭に来るな、ギルマスの言い分も解るぜ」


「これはお願いではない儂からの命令だ! リヒトやエルザに害する者はこの街から追い出す! 街の最大戦力に害なすのなら、この街には要らない」


ファルハン伯爵がそう言うともう誰も文句をいう者は居なかった。


「ギルドからも内容は後で考えるが『冷遇』される覚悟はしてくれ!」


領主に冒険者ギルドに商業ギルド…そして街の人間の実力者。


これを敵に回す馬鹿は居ない。


これできっとこの街でリヒト達は問題なく暮らせる筈だ。





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