第31話 修羅場③ 巨乳病



「リヒト…ちょっと聞いてもいいかな?」


「どうした? 態々あらたまって」


残り二人を探しに行こうとしたらエルザに袖を掴まれた。


「あの、凄く聞きづらいんだけど? あの一緒に居た、その胸が可笑しい女の子なんだけどさぁ…」


なんだか歯切れが悪い。


何が言いたいのかは、なんとなく解る。


アイカの化け乳についてだろう。


「アイカの胸の大きさの事か?」


「そうだよ! そう『化け乳』! リヒトは、その…平気なの?」


貧乳聖女ともういいや貧乳女神のせいで『醜い』という価値観になってしまっているからな…


どう答えるべきか。


正しくは『大好きだ』になるがそう答えられないのがこの世界だ。


「俺は全く気にならないな! だが皆が嫌っているのは知っているよ! まさかエルザまで何か言う気なのか? エルザから人の悪口は聞きたくないな」


流石に親友からアイカの悪口は聞きたくないな。


ガイアはまるで居ないかの様に、その話には触れて来なかった。


恐らく気まずくなると思い避けたんだろうな。


「決して悪気があるわけじゃないんだ…本当に真剣な話なんだよ…頼むから教えて欲しい…リヒトは胸で、その…人を判断しないの、お願いだから僕に教えてよ…」


真剣な顔だし、なんだか切羽詰まって泣きそうな顔に見える。


言葉を選んでちゃんと答えるべきだろうな。


「絶対に他の奴に言うなよ!そうだな、可笑しな話だと思うかも知れないけど気にならないな…寧ろ、触ったら柔らくて気持ち良いだろうな…なんて思ったりする位だ。ほら実際にはスライムなんて危ないから触れないけどプルプルして触ってみたいな、なんて思った事があるだろう? それに近い」


「へぇ~そうなんだ…それであの子の胸はその触ったのかい?」


なんで俺は幼馴染にこんな事話しているんだ…しかも此奴、恐ろしいほどギラギラしてるし…


まぁ良い。


此奴は『親友』だから…はぁ言うか。


「絶対にガイアや他の奴には内緒だからな」


「解ったよ…僕は約束は守るから、安心して…それでどうだった?」


なんでこんな話に真剣になるんだ。


「どうだったとは?」


「ほら、皆言うじゃないか? 吐き気がしたとか、死にたくなったとか? 腕を斬り落としたくなったとか?」



貧乳聖女のせいで頭が可笑しくなっているのか?


そこまでの事じゃないだろうに…


「絶対に人に言うんじゃないぞ…ぷにぷにして触り心地が良かった、もぉ、この話はおしまいだ、俺は行くからな」


「まっ待って…僕の話を聞いてくれないか?」


なんだ…


「まぁ、聞く位構わないけど?」


「そう…僕はリヒトから聞いた話は何があっても話さないよ! 例え拷問にあってもね…だからこれから見た物については絶対に話さないで…もし君の口から洩れたのを知ったら…僕は生きていかれないし、絶対にリヒトを殺すから…」


「なんだか物騒な話だな…親友だから聞くよ」


「あはははっ君ならそう言ってくれると思ったよ…もう誰にも相談できずに辛いんだ…でもね、きっとリヒトもこれを知ったら僕の事なんて嫌いになっちゃうよ…だけど、親友だよね? 嫌いになっても構わないけど、言いふらしたり罵詈雑言だけはやめてね…」


そう言いながらエルザは震えながら軽装鎧の胸当て部分に手を掛けた。


その下にはまるでミイラみたいにサラシがまいてある。


胸が擦れないようにまいているのか?


だが、これがどうしたというんだ。


自分の胸の形を自慢でもしたいのか?


残念ながら俺はこの世界の美乳、微乳=貧乳には興味が…無い。


エルザの目から涙がこぼれ震えながらも、その手でサラシをといていくと、ポロリと場違いな大きな胸が顔を出した。


幼馴染をこんな目で見てはいけないが『エロ』としか言えない。


アイカの綺麗な半球型の胸と違い釣鐘型というか少し垂れた感じで、簡単に言うならエロ本やアダルトな雑誌でスケスケのキャミソールを着ているような感じのお姉さんの胸だ。


しかも…かなり大きく乳輪もピンクで大きい。


鼻息が荒くなるのを誤魔化し…冷静に紳士的に振舞う。


「これどうしたんだよ」


「あはははっリヒトこれで僕がガイアと結ばれる未来はないし、女の子とそう言う関係になれない…その理由が解っただろう?…僕も『化け乳』なんだ、今迄必死にサラシを巻いて誤魔化していたけど、そろそろ限界…こんな醜い女愛せる人間なんて居ないよ…お金を買えば奴隷は手に入るけどさぁ、きっとその子は生涯僕を嫌って恨むよ…」


可笑しいな…記憶にあるエルザは本当にぺったんこだった。


「なんでそうなったんだ?」


「笑うしかないよ…巨乳病…乳房肥大病という病気なんだよ…あはははっどんどん醜くなっていくんだ僕の胸…まだ大きくなるんだって」


※架空の病気です


「そんなの聞いた事ないぞ…」


「教会の司祭さんもそう言っていたよ…歴史的にも滅多にいない奇病らしいしよ、よりによってなんで僕なのかのな…死ぬ事もなくただ胸が大きくなるだけらしいけど…不治の病でたとえエリクサールでも治らないんだって…僕の女としての人生はもう終わっているんだ…」


エリクサールで治らないなら絶対に治らない...そういう事だな。


凄いな、この世界は巨乳に価値はないからか、さっきから胸出しっぱなしなんだけど…


ボーイッシュチビでスレンダーで巨乳。


前の世界なら、その手のマニアにモテモテだな。


勿論、俺も好きな胸だ。


「俺は気にならないな…エルザの事は元から好きだし…なんなら、勇者パーティから外れて俺やアイカと暮らすか?」


「あはははっグスッ、相変わらずリヒトは優しいね…こんな醜い僕の胸を見た後に、そんな言葉…嘘だって解っても、ぐっときちゃうよ…」


「そうか…俺は本気だけど!」


「同情…だよね! 解っているよ…だけど、そんな言葉…あははは、グスッ…簡単に言っちゃ駄目だよ…それ以上言うと僕きっと…もうリヒトから離れられなくなっちゃうよ…」


「それで良いよ! 一緒に暮らすか?」


「もう…僕知らないよ…そこ迄言うなら解ったよ…パーティでも何でも僕の事は全部、リヒトの好きにして良いよ…」


「そうか…解った」


「その代りね…もし僕を捨てたりしたら…殺すからね…後で嘘とか言ったら四肢切断して拷問の末に…バラバラにして殺しちゃうから…もう後戻りできないからね…リヒト」


「解った」


剣聖の殺気まで込めて言うなよ…体がガクガクしたぞ。


「そう、なら良いや…それじゃ一緒に二人を探しに行こうか?」


「そうだな」


剣聖が此処迄怖いと知らなかった、足が小鹿のように震えている…絶対に怒らせない様にしないとな。








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