第19話 アイカSIDE 妄想世界?



まだ、家族が仲が良かった時に、お父さんが言っていました。


『『運』というのは皆が同じ位あるんだよ…だから良い事ばかりじゃないし悪い事ばかりじゃない』って。


私の人生を振り返ってみると、本当にそうなのかも知れません。


確かに化け乳で無能ですから、これ程、悲惨な事はありません。


ですが…目の前に理想の王子様が現れて、自分を好きになってくれたら…どうなのでしょうか?


『英雄』と言われる非の打ちどころが無い美少年に愛される毎日。


普通に考えたらあり得ませんよね。


多分、女の子だったら誰もが憧れるんじゃないですか?


特に冒険者の女の子だったら、きっと私以上に『英雄と言われるS級冒険者』のパーティに加わり、一緒に過ごす日々。それを夢見ている女の子はそれこそ、山程いる筈です。


しかも、それだけじゃありません。


その憧れの『英雄』が家庭的で、料理や家事が得意で毎日ご飯まで作ってくれるとしたらどうでしょうか?


こんなのはきっと誰も想像すら出来ないと思いますし、しませんよ。


そんな男性なんて、それこそ『妄想』や『憧れ』の中にもいません。


現実にそんな事までする男性なんてリヒトさん以外では見たことも聞いた事もありません。


運よく凄く優しい旦那様との良縁に恵まれて、働かないで妻の仕事だけをさせて貰える…それが平民の考える女の子の最高に幸せな生活なんです。


旦那様が手作り料理を毎日作ってくれるような生活なんて絶対にありませんよ。


貴族様になれば、料理人が作ってくれるのかも知れませんが、旦那様が作るわけじゃないですよね。


どう考えても今の私の環境は…異常すぎますよ…


元勇者パーティで世界に数人しかいないS級冒険者で誰からも愛される美少年。


街どころか国中の人気者で性格まで良いと評判、女の子なら彼とのロマンスの夢は誰もが見ると思います。そんな人が…醜い私を好きになっている…可笑しいですよね。


私は貴族の令嬢でも大商会の娘でもありません…更に言うなら化け乳をぶら下げた醜い奴隷なんです。


そこ迄でも絶対にありえない事なのに…その美少年は旦那様のする仕事だけじゃなくて奥さんがする仕事までしてくれます。


料理が得意でまるでレストランで食べるようなごちそうを作ってくれるんです。


リヒトさんは女子力迄パーフェクトなんです。



可笑しいですよ…こんなの妄想でもない限りあり得ない話です。


普通に考えたら…誰も信じてくれないと思いますよ。


私『もしかして死んでいるんじゃないですか』これは死の間際に見ている私の妄想なのでは?…そう考えて頭を思いっきり叩いてみたら、ちゃんと痛かったです。


これが…妄想でも夢でもないんです。


もしかしたら、女神様が余りに私に対する扱いが酷いと思って反省して、ジョブをくれなかった代わりにお詫びとしてリヒトさんと、くっつけてくれたのかな? なんて思いましたが…化け乳が嫌いですから、そんな事をあの女神様がするわけないですね。


本当になにがなんだか解りませんよ。


ですが、本当なら絶対に起きないし、あり得ない事が起きちゃった…それは間違いがありません。


その結果私は『乙女の妄想世界のヒロイン』みたいな状態になっています。


こんな話、もし自分が経験してなければ『嘘だー-っ』と多分決めつけちゃいます。


信じられなくて、我儘を言っても、泣いて喚いても…リヒト様は優しいままです。


なんなんでしょうか?


全てが可笑しくて、自分自身…今でもこれが夢だとしか思えないんです。


何もかもが本当に可笑しくて信じられません。


よく考えて見れば、リヒトさんは元勇者パーティなんです。


勇者パーティには『麗しの剣聖エルザ様』『慈愛の癒し手マリアン様』『知恵の天使リラ様』がいます。


つまり、全員が勇者ガイア様を選んでも、そんな美少女に囲まれた生活を送っていたら目が肥えて奴隷を買うにしても絶対に美少女を買うと思うんです。


なんでS級冒険者でお金だって沢山持っているリヒトさんが…化け乳女なんて買うのでしょうか?


普通に考えたらオルド商会になんて来ないでエース商会でエルフを買いますよね…そこからして可笑しいんです。


もう、何がなんだか解りません。


気がついたら…別動隊ですが勇者パーティ『希望の翼』のメンバーになってしまい、金貨20枚も貰ってしまいました。


奴隷どころか普通の奥さんでも金貨20枚なんて貰えないですし、冒険者の憧れ『希望の翼』のメンバーになるなんて、可笑しすぎますよ。


まるで妄想が現実になった。


そうとしか思えません。


ですが…この私の妄想は…更に膨らんでいっています。


これは流石に無いと思うんですよ…


リヒトさんは優しいから『化け乳が好き』と言っているだけで…本当は気持ち悪いはずなんです。


見るのも触るのも嫌、それが『化け乳』なんですから。


だから、これは私の妄想だと思いますし、絶対にありえない筈なんです。


ですが…リヒトさんは『化け乳』が当たっても嫌な顔しないんですよ。


それ処か嬉しそうな顔をしている様に見える時があるんです。

そんな男性はこの世にいるわけがない筈なんですが…


それなのに、リヒトさんは「それがアイカの物だって言うなら、その胸も愛せる」なんて言うんですよ…


もうどうして良いのか解りません。


今迄私は世界を恨み生きてきました…ですがこんな甘く優しい生活が送れてしまうなんて…信じられません。


ああっ、本当に訳が解らなくなりました。


本当にもう、どうして良いのか解りません。


私は今迄、化け乳になってから誰からも大切にして貰った事なんて無いんですから、どうして良いか解りません。


それなのに、いつも、こんなに大切にされたら…


体がムズムズして、もうどうして良いのか解らなくなっちゃいますよ…


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