第17話 異世界料理と無自覚
その日の夜は狭いベッドで抱き合うようにして眠った。
「あの、本当に大丈夫ですか? こんな気持ち悪い物を押し付けた様な状態で…」
「全然気にならないよ」
これは寧ろご褒美だ。
だが、それを言えないのが辛い。
「それなら良いのですが…」
そう言いながら俺の腕をとり自分の枕にするアイカには昨日程の悲壮感はなく、少しだけ笑顔が混じっている様に俺には思えた。
◆◆◆
しかし、習慣は怖いな。
今迄パーティで一番早く起きて、色々と支度していたせいか、ゆっくり起きようと思っていたのにどうしても早起きしてしまう。
折角だから今日は日本食モドキを作ってみた。
今日の朝食はサーバの干物にほうれん草モドキの味噌汁にご飯モドキに大きな卵焼き。
ちなみに一見日本食風だが、微妙に違う。
サーバは鯖に似た感じではあるが川魚だ。
この世界に干物という考えが無いのか、それともあっても知られてないのか解らないが、俺以外で干物を作っている人間にあったことは無い。
ほうれん草モドキはほうれん草に似た草でこの世界でも食べられている。
案外味噌汁に使えそうな具はありそうでないから、味噌汁が好きな人間は困る環境かもな。
味噌があるだけ大昔の転移者に感謝だ。
ご飯モドキは日本の白米とは違いどちらかと言えばタイ米に近い。
素直にピリオニでも作れば良いのだが、そこはどうしても俺は『普通のご飯』に拘りたい。
卵は普通に市場で買ってきている物だが、正直なんの卵かは解らない、ピーコケという鳥の卵らしいが鶏の卵の三倍位大きい。
本物の日本人が食べたらきっと良くて普通、人によっては不味いと言うかもしれないが、此処は異世界。
この程度であっても数少ない、異世界(※この世界の人から見たら地球人が異世界人扱いです)レストランクラスに美味しいらしい。
まぁガイア達に作ったら…美味しくないと嫌な顔をされたけどな。
◆◆◆
アイカを起こそうとしたが、一瞬手が止まってしまった。
やっぱり、八頭身で出る所がしっかり出ている女性は、凄くセクシーだ。
スラっと長い手足に大きな胸に整った顔。
可愛いけど前世で言う大人の女性にしっかり見える。
毛布からはみ出て見える胸元や太腿にもセクシーさがあってこのまま見続けたい気持ちに捕らわれそうだ。
勇者パーティの時はガイアも傍にいる事もあって、背が小さく胸も小さいから、気分はほぼ、子供を起こす父親気分だった…今とは全然違う。
だが、折角作ったんだ…あたたかい状態で食べて貰いたい。
「アイカ…ご飯が出来たぞ!」
「う~ん、もう朝、飼料をあげないと…えっ! ご飯?!」
「俺は飼料は食べないな…」
「リヒトさん、寝ぼけてしまって…すいません、恥ずかしい」
今迄、何年も豚の世話をしていたんだから、仕方がないよな。
前世で言うなら職業病って奴だ。
「気にしないで良いよ、それよりご飯が出来たから食べよう」
「はい…あの…」
「どうかした?」
「いえ、リヒトさんが今日もご飯を作られましたが、いつも作っているんですか?」
「そうだな、言われてみれば昔からいつも作っているけど? どうかした?!」
「凄いですね…まるで理想の旦那様じゃないですか? 噂以上ですよ…驚きました…」
「そうかな?」
「無自覚なのですか? 強くて稼ぎがあってS級冒険者、そして家事まで完璧…そんな人普通は居ませんよ!まるで理想の旦那様じゃないですか!」
「そうかな? 別にそんなこと無いよ! それより今日は『和食』を作ってみたんだ!食べて見て」
「和食ですか? え~とこれ異世界料理に見えますが…」
「俺からすれば前世では当たり前の食事だけど、確かにこの世界の人からしたら異世界料理だね! 魚の干物って言うんだよ。まぁ好みは別れる料理だけどね」
「それ、網に入って吊るしてあるお魚ですね?」
「ああっ干していたんだ、こうして焼くと結構美味いんだ。塩が振ってあるから、まずはそのまま食べて、他の味が良ければ、テーブルにあるソースをつけても良いけど変わった味だから気をつけて」
醤油モドキはガイア達には評判が悪かった。
異世界人には合わないのかも知れない。
本物の醤油に比べると少しコクが無く味は遠く及ばない。
「凄いごちそうですね、朝から凄いです…ね」
異世界料理、所謂和食はこの世界ではごちそうだ。
「さぁ、食べようか? 頂きます」
「えーと、頂きますってなんですか?」
「これは異世界の食事の挨拶だ」
結局これもガイア達はいう事は無かったな。
「そうですか? 頂きます…少し変わった味ですが、凄く美味いです!このお魚、凄く美味しい、頬っぺたが落ちそうです!」
良かった、どうやら口にあったみたいだ。
「この白い粒粒も変わっていますが、美味しいです」
「ご飯って言うんだ、異世界ではメジャーな主食だよ」
「どれも初めて食べる味で、凄く変わっていますが、本当に美味しいです…こんな豪華なご飯初めてです、本当に凄く美味しいですよ!」
「そう? それなら良かった、魚はもうないけど、ミソスープやご飯モドキはお代わりがあるから、じゃんじゃん食べて」
「本当ですか?ありがとうございます!」
勿論、箸ではなくナイフとフォークでだが、結構綺麗に食べている。
子供の頃は貴族の使用人の娘。
その頃の食べ方を思い出したのかも知れない
「本当にこれ美味しいですね」
お代わり迄してくれて中々の食べっぷりだ。
「和食、異世界料理の味を気にいって貰えて凄く嬉しいよ、まだ沢山のレパートリーがあるから、これからも楽しみにしてくれて良いからな」
「本当に美味しいですよ!ありがとうございます!」
「どうかしたのか?」
「本当に良いのかな…」
「何を言っているか解らないけど、いいんじゃないか? 俺凄く楽しいから」
「本当に?」
なんで驚いた顔しているんだ。
「ああっ本当だよ」
「勇者パーティって変わっていますね」
「そうか…?」
「そうですよ」
俺の欲しかった物はきっと『感謝』だったんだな。
ただ、俺がした事で笑ってくれて喜んでくれて、お礼を言ってくれる。
それだけで良かった。
「アイカが喜んでくれるだけで俺は満足だ」
「リヒトさんって別の意味で凄いですね…無自覚なんですね」
アイカが何を言っているか解らないが、可愛い笑顔で笑っているからこれでいい。
本当にそう思う。
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