経験値10,079,609分の罪

工藤千尋(一八九三~一九六二 仏)

第1話迷える勇者

「おい」


「はい?」


「はい?じゃねーよ。お前!お前がぼーっとしてるから全滅したじゃねえか!お前、勇者だろうが!」


「あ…、うん…」


「覇気がねえよ!パーティ全滅だぞ!もっと責任感じろや!」


「そうよ。あんたちょっとおかしいよ」


「だな。最後の魔王戦でぼーっと突っ立ってるだけって。しかも対魔王戦であれほど『最初に使いなさい。そうすれば魔王の力を半分に封じることが出来ます』って手渡された『封印の石』も使わねえし。持ってるお前が使わねえとパーティ全員が迷惑するだろがああああああああ!」


「…ごめん」


「ごめんじゃない!」


「お前さあ。ここまでどれだけ苦労してきたと思ってんだよ。経験値10,079,609でレベルマックスだぞ!」


「…それなんだけどさあ」


「ああ?」


「その…経験値10,079,609…。経験値10,079,609分のモンスターを殺してきたわけじゃないですか…」


「当たり前だろ!!」


「それだけのモンスターを殺したことって…、悪いことじゃないのか?」


「はあ?」


「いや、だから、その僕たちが殺してきたモンスターも実は魔王との板挟みだったとかで。本当は僕らと仲良く暮らしたかったのかもって…」


「はあ?」


 勇者は後悔していた。経験値の分だけ殺戮を繰り返してきたことを。


 勇者は悩んでいた。自分は極悪人ではないのだろうか、もう手遅れで救われないのでは、と。


 勇者は考えていた。誰も殺さずに世界を救う方法があったんじゃないか、と。

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