恐怖

 俺はノートで得た友人達と楽しくやっていた。抱く女達はみんな結婚を求めてくるし、なんなら男達までそんな気を起こしてくる。でも悪い気はしなかった。全員が本当の俺を好きでいてくれる。奢る回数は減っていき、逆に奢ってもらう事が増えた。決してお金が無くなったわけではなく、むしろ有り余るほど貯金はある。でもみんながそうしたいと言うからそうしている。

 本当の意味で幸せだった。みんなが僕を愛してくれている。俺はお金では決して買えない物を手に入れたんだ。

 大事なものは失ってから気づく。俺はお金を手に入れてから友情や愛情を失った。あのノートのおかげで大事な物を手に入れて、失って、また手に入れた。また何かを失うかもしれない。でもまたノートに願いを書けばいい。そこであのセールスマンが言っていた言葉が脳裏にちらつく。

(願いを三つ叶えるごとに災いがお客様自身に降り注ぎます。災いは願いの大きさに応じて強くなります。くれぐれもご注意下さい)

 次の願いで三つめだ。願いの大きさの定義が分からないが、人生を変えるほどの願いを二回もしたのだから代償もでかいかもしれない。もしかしたら命に関わるほどの事が起こるのかもしれない。 

 一度現れた不安は消える事なくいつまでも残り続ける。日に日に恐怖が強くなっていく。次第に誰といても心からは楽しめなくなった。

「死にたくない…」 死が確定しているわけでもないのにそれへの恐怖が自分を包んでいる。どうすれば災いを無事に乗り越えられるか常に考えた。

「考えろ…考えろ…考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ」 その時絶対に死なない方法を思いついた。

 ノートを広げ災いに向け覚悟を決める。

「大丈夫、俺は無事でいれる」 そう自分に言い聞かせて筆をとる。一文字書くごとに心が押し潰されそうになる。時間をかけて三つ目の願いを書いた。




[不老不死になりたい]






次の瞬間

   暗闇に包まれた

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願いのノート 奏〜カナエ〜 @mukiziro

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