冷静に狂う博愛主義者【お芝居系・ファンタジー】(※タイトル変更可能)


__歳月を費やして作り上げたものが、

  一晩で壊されてしまうことになるかもしれません。

  それでも作り続けなさい__


__今日善い行いをしても、次の日には忘れられるでしょう。

  それでも善を行いを続けなさい__


__…あぁ、今日も神に感謝を。__


……柄じゃないって?

私だってそういう気分になる時くらいあるさ

誰の言葉だったか…あぁ、そうだマザーテレサだったかな

私の産みの親が気に入っていたんだ

小さい頃に何度も聞かされたさ


ご丁寧に、トイレの壁にまで貼り付けてあったよ

全く、ありがたいんだか、不信仰なのか…


だって考えてもみてくれよ、

こっちは多感な時期で、場所は不浄だぜ?

自分の性と生、人間が生きている限り必然となる行為の中に

全く持って有難い言葉が目の前に張られてるんだ


よく酒場だかのトイレに、あぁ、君らになじみのある言い方なら

「イザカヤ」だったか、アレの壁にも似た様なのがあるじゃないか

「オヤジノコゴト」だっけ?


落ち着いて考えてみればおかしなものだよ

そこに行く人間は、ただ単に排泄に向かっているだけなのに

なんならついさっきまで、人と人のかかわりの中で摩耗して

人によっては、この後のオタノシミにどう繋げていこうかと

無い知恵を働かせて、胸躍らせて…


そんなところに不意打ちもいいところだよ…

私はね、そこに書かれている言葉自体は否定するつもりは無いんだ

誰の言葉だって、言葉は言葉、想いは想い…

きっと尊いものであって、尊重されるべきものなんだろう


こんな私だって、共感は出来なくとも、理解は出来る

それにその言葉自体が、ココにしか居られない私の救いになったことだってある


問題はね、私が嫌悪しているのはね

そういった、自分で生み出したわけでも無い言葉を

さも自分が作り上げた価値観や概念…信仰と言ってもいい形に

本来の意味では無く、「自分はこれだけ尊い人間だ」と

喧伝している連中に吐き気がするんだ


だってそうだろう?

絵画でも、歌でも、詩でも、そこに何を込めて生み出したところで

結局は受け手がそこに何を見出だすかじゃないか

創造した側と、それを享受する側との誰にも脅かされない不可侵


…そんな所に割って入るような輩は、あまり好きじゃない


あぁ、また話がそれてしまったね

君が言ってくれた話から、何となく思い出した言葉だったんだ


今まで私が言ったことだって、一つの評論でしかない

誰かを肯定すれば、誰かを否定する事になってしまう

人同士の不完全なコミュニケーションが生み出した弊害


…皆、自分が大好きだからね


だけど、言葉を翻す様だけれど

「それでいいんだ」よ


何回、何万回、何億回…気が遠くなって自分で自分を終わらせることすら

面倒で億劫になって、ただただ摩耗を待つだけになったとしても


それでも、君は君の感情を、意志を、情熱を

その口や手や、持てる力の全てを注いで創り上げればいい


この先、どんな困難があるかは知らない…いや知ってはいるけれど

それでも、自分が夢見る、届きたい頂きに手を伸ばし続ける事は

果たして誰が否定できようか


いいんだよ、それで

…私はね、人が人を、人たら占める全てを愛しているんだ

そこに生み出される喜びや幸福、読み解くだけで胸の内が甘くなる痛み

悲しみや孤独、寂しさや後悔にまみれて、口の中が乾ききるような絶望だって

大好きなのさ


あぁ…願わくばこの私の体が朽ち果てたとしても

君らの物語を味わい尽くせるように

観測する心だけはどうか風化しない様に祈るばかりさ


あぁ、また話がそれてしまったか、すまない

だって君があんまりにも美味しそうな、いや苦しそうな顔をしていたからね


いいんだよ、今まで辛かったろう

もう大丈夫、私は私の全てを用いて、君の全てを愛そう

誰に否定されたところで、君は君を辞める事は出来ない

私は誰に肯定されたところで、私でしか在れない


だから、君の全てをかけて、君の意思をもう一度示してごらんよ

この私の愛玩を越えて見せておくれ

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