19話 侵攻開始(グレア視点)

 「さぁて、そろそろ行きますカ♪」

 ゴブリン師団の長、グレアは都市侵攻のためゴブリン中隊を率いホロウの森を突き進む。

 森の中腹に差し掛かると、兵たちをあらかじめ予定していた位置へと配置させる。

 場所はもちろんギルドで発行されているクエストで冒険者が来るであろう場所だ。

 

 「男は全て始末してしまいなさい、女は……任せますヨォ♪」

 グレアの兵たちは配置へと散っていく。

 この軍勢で冒険者をなぎ倒しながら進軍してもよいが、取り逃がし街へ駆けこまれ予定が狂うのは避けたい。

 闇討ちで多くの戦力は削げるため配置する兵は最小限だ。


 あらかじめ仕掛けておいた魔術印は確認済み、あとは獲物がかかるのを待つだけ。


 「戦いが始まる前のこの高揚感、たまりませんネェ。お楽しみの時間より、今か今かと待つこの時の方が私はたまらなく好きなんですヨォ、そうは思いませんカ?」

 グレアが腹心の筋肉質なゴブリン兵に問いかけると、そのゴブリン兵はニィと笑い親指を立てて同意する。


 予定通りにいけば都市攻略はさほど時間はかからず完了する。

 「くくく、人間共の苦悶に満ちた表情が楽しみですネェ。」

 グレアは戦いを好むが、特に対象が人間であればなおさらだ。


 人間たちは獣人を見下し、その繁栄にあぐらをかき自分たちが頂点にいると勘違いしている。

 獣人たちはこの機に秘密裡に同盟を結び、各都市を攻め落とす算段を立てていた。

 この交易都市カルアはその第一手だ、ここがうまくいけばその混乱に乗じて数日内に他の都市への侵攻も開始される。

 他都市への経由地となるここは要衝の一つ、まずは確実に落としておく必要がある。


 冒険者たちが通るであろうルートとは別ルートを迂回し、ゴブリンの軍勢はカルアへとたどり着く。

 時刻は日輪歴500年の節目となるまであと数刻、深夜ということもありあたりは静けさに包まれている。


 「第4小隊、第5小隊、第6小隊、第7小隊は予定通り、街の外周を固み別ルートから侵入し作戦開始してくださいネ。」

 指示通り、各小隊は素早く移動を開始する。

 残るグレアたちと別動隊は正面に見据えた物資搬入の門から侵入する。

 手はず通り門は開け放たれており、人の姿は近くには見られない。


 少し進むとその先には女神フレアを祭る聖堂が見える、司祭や住民は日輪歴500年の記念となるこの時に、聖堂の中で祈りをささげているだろう。

 「私と第1小隊は聖堂を攻め落としますので、第2小隊、第3小隊は左右に分かれ住民を全て始末しなさい。さぁ、お楽しみの時間ですヨォ♪」

 グレアたちは聖堂へと歩を進める。


 ほどなくすると、あたりから断末魔が響き渡る。

 それを聞きならがグレアは恍惚な表情を浮かべた。


 「あぁ~いいですネェ、愚かな人間たちが苦悶の声をあげていると思うと最高ですネェ。さぁ、私たちも急ぎましょうカ♪」

 グレアは聖堂のドアを勢いよく開け放った。


 「さぁ、パーティーの始まりですヨォ!」

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