8話 撒き餌
冒険者ギルド近くに立ち寄ると、中にはミリアが受付で待っていた。
「ルカ、シエルくん、おかえり~。」
まだ夕方に差し掛かる前のギルドの中はクエストを終えていない冒険者が多いため、比較的閑散としていた。
「今日はまだあいつらは来ていないよ、タイミングがいいからちょっと待ってて。」
ミリアは近くにいた他の受け付けの子に何やら断りを入れているようだ。
「おまたせ~、2人とも少しだけ時間をくれるかな、今話がしたいんだ。」
俺たちは奥にある一室に案内された。
ミリアは両手に抱えたクエスト依頼書をテーブルに綺麗に広げた。
「シエルくんの言った通り、いくつかの商会から【ホロウの森の夜間パトロール】のクエスト依頼がここ数日で多数発行されていたよ、随分と割のいい報酬でね。」
「そうだろうね、ミリアさん、ここに案内してくれたってことは……。」
ミリアは観念したかのように話を続けた。
「バレたら大目玉くらうだろうなぁ~、まあ緊急事態だし仕方ないか。」
そう言うと1枚のクエスト依頼書をテーブルに広げた。
【クエスト依頼】
ホロウの森の夜間パトロール
【詳細】
来たる日輪歴 500年の記念となる夜。
獣人や魔物の徘徊の可能性を考慮し、
ホロウの森のパトロールを依頼する。
パトロール区域は主に中継監視所、中央広間、東部の渓谷3か所に分かれて行ってもらう。
【報酬】
一人当たり 金貨3枚
【クエスト時刻】
日輪歴 499年12月31日23時より
【募集人数】
50名
「本当はまだ見せちゃいけないんだけどね~、一部のクエストは冒険者に公開するだいぶ前に依頼がくることも多いんだ、これもその1枚。」
「このパトロール依頼、最近ほぼ毎日依頼があるのに現時点ではその依頼が最後なんだ。」
「一見すると日輪歴500年を控えた自然な依頼に見えるけど、俺の思った通りだった。」
「ということは、森で何か見つけたんだ。」
俺は静かにうなずくと、拝借してきた魔術印を見せる。
「…っ!ゴブリン族の捕縛術式、しかもかなり高度な魔術印だね。」
「これが仕掛けられていたのは中継監視所、中央広間、東部の渓谷。」
「ねぇ、これって……。」
ルカもミリアも理解したようだ、このクエストこそギルドの冒険者たちをおびき寄せるための真の目的だ。
都市侵攻に合わせギルドの冒険者をこのクエストで分断するのが狙いと見て間違いない。
「今までのクエストは撒き餌、本命のこの日に何かが起こるっと。」
「ミリアさん、協力してほしいんだ。」
「ここまで証拠見せられたら協力するほかないよね、わかったよ。ギルドの冒険者のみんなは家族も同然だしね。このクエストにいかせたら報酬の金貨は埋葬する際のお供になっちゃうかもね。」
冗談っぽくミリアは言うが、あながち間違いではないだろう。
時刻は夕刻に差し掛かっていた、残された時間は3日。
まだやれることはあるはずだ。
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