バイバイセックス
岩橋藍璃
序章
「陽太、今日はお前が好きなハンバーグを食べに行こう」
「え、いいの?」
父は仕事から帰ってくるなり、リビングでテレビを見ていた陽太に声をかけた。スーツ姿の父に、着替えを差し出しながら、母は微笑んだ。
「いいのよ。今日は陽ちゃんの中学受験合格祝い。みんなで食べに行きましょう」
隣で一緒にテレビを見ていた弟が歓声を上げ、ソファーから飛び降りて、玄関まで走っていった。陽太も弟の後を追って、玄関に向かった。
寒い玄関で足ふみしながら、ダウンジャケットを羽織り、靴を履いていると、父に頭をなでられた。父の大きな手が、自分の頭を包み込む。振り返って父を見ると、父も笑顔を浮かべていた。
「行くぞ」
陽太は父の言葉に、力強く頷き、玄関の扉を力いっぱい開いた。
目が覚めた。鼻の奥にハンバーグの匂いが残っている。
ベッドから起き上がって背伸びをすると、煙草の匂いと妙な体臭が鼻をつき、夢の中の匂いをかき消した。ふと隣を見ると、よく知らない女が寝ている。陽太はため息をつき、脱ぎ捨てた服を拾った。
幼い頃、思い描いていた未来。就職して、家庭をもって、普通の幸せを享受する。それが叶わなかった現実に、陽太は頭をかきむしった。
「普通になりたかったな」
陽太はそう呟いて、かき集めた服をほったらかして、鞄から煙草を取り出した。
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