Dark Dark Deep
@KamiseYu
第1話 First Night
必要に迫られた時、力は発揮される。
「ユニット3-5からグラディウス、どうぞ」
『こちらグラディウス』
「作戦の可否を問う。決行か、中止か?」
『――霞が関から承認が降りた。決行しろ、ユニット3-5』
-2019年1月7日 東京都渋谷区-
その日は新年ではじめての雨だった。
雪になりきらない雨は、東京の寒空を埋め尽くしている。
センター街からそう遠くない雑居ビルに3台のランドクルーザーが停車した。
車両からは瞬く間に完全武装した男たちが下車し、ビルへと突入していく。
その様子は上空から航空自衛隊のグローバルホークが捉えていた。
「陸幕長、始まりました」
渋谷から5km、いわゆる”市ヶ谷”の地下でその模様はモニタリングされている。
磯先陸上幕僚長は戦後初めてとなる陸上自衛隊の公式な”せんそう”をよもや自分の判断によって起こされるなどとは考えても見なかった。
磯先はモニターを凝視しながら、事前に部下より説明されていた行程を反芻する。
「目的はVIPだ、頼むぞ」
ユニット3-5は10名の部隊構成で、雑居ビルを次々にクリアリングしていく。
先頭を切る隊員は、標的とその一味が居るとされていた階層へ到達すると部隊の足を止めさせた。所定の計画通り、非常階段扉から突入し、階層を制圧する。
本来であればラペリング等で上下から攻めておきたいところではあったが、公式作戦とはいえ露見は避けたいという霞が関の意向だ。
ドアノブに粘着性の専用爆薬を取り付け、起爆する。扉は爆圧で内側へと吹き飛び、その瞬間を狙って別の隊員がスタングレネードを中へ放り投げた。
一瞬間を開けての閃光と音響の連鎖、中にいた人物たちはひとたまりもない。
彼らは武装の有無を問わず射殺された。
クロスエントリーした隊員達が手にした自動小銃は日本製で、その存在を隠すことなく人の命を奪う。
「クリア」
突入した室内の安全を確保すると、彼らはすでに敵に発見されていることも厭わず次の部屋へと向かった。
「今のところは順調のようだね」
磯先の言葉にグラディウスこと飯井一等陸佐はうなづき、
「ユニット3-5はこの日のために訓練してきました。存在しない有事が現実となった事が、喜ばしいことはありません。しかし、それによってまた彼らは彼らかくあれるのです」
ポイントマンの隊員は、手にしたベネリM4を構え次の部屋に突入用意をする。
部屋の扉はアルミ製らしく、破壊は容易そうと判断した。
『ブリーチ!』
すかさず後続の隊員がドアのサイドに取り付き、指向性爆薬を設置する。
彼らは機械のように動き、その正確性を示す。
扉は内側へ吹き飛び、更にそこへスタングレネードが投げ込まれる。
『突入!』
エントリーした隊員たちは中に居た”敵”を制圧する。
その際に敵の弾で隊員が一人倒れた。
『07被弾、後退させろ。04、カバーだ!』
『バイタルは安定している、早くしろ!』
作戦室の佐官は一息だ。殉職は免れた。
ユニット3-5はすぐに立て直し、交戦を続ける。
『2名排除、ムーブ!』
『1名排除』
『VIPはこの先だ』
兵士たちのヘルメットにマウントされたカメラからリアルタイムで配信される動画は市ヶ谷の作戦室で映し出される。
最後の扉、そこにユニット3-5は取り付いた。
『ブリーチ』
扉が吹き飛び、中にスタングレネードが投げ込まれる。
『突入!』
3-5の隊員たちは部屋の中へと突入した。
しかし、部屋の中はがらんどうで、人っ子一人見当たらない。
『・・・VIPが居ない!VIPをロストした。グラディウス、どういうことだ』
情報通りだった、ここまでは。
「馬鹿な、なぜ・・・」
『グラディウス、応答を願う。VIPをロストした。繰り返す、VIPを・・・』
飯井一佐は言葉に詰まる。磯先もまた、失敗の文字が脳裏によぎる。
そして、次の言葉に驚きを覚えさせられるのだ。
それはユニット3-5からもたらされる。
『グラディウス、こちらユニット3-5!緊急離脱を行う!当該ビル地下施設を索敵中のB分隊がセムテックスを発見。警察に周辺住民の退避を--』
最後までユニット3-5小隊長の言葉を聞くことは出来なかった。高い金属音で無線が途切れたと同時に、彼は、いや、ユニット3-5は霧散したのだ。
市ヶ谷でもその爆発音は確認できた。
「ユニット3-5は、だめだろうねあれでは」
首都高湾岸線、横浜ベイブリッジを走るスバル・フォレスターの運転手がつぶやく。
カーナビでは渋谷区の中心街で大規模な爆発が有り、ビル一棟が倒壊したという速報が流れている。
「特戦群は現実に即していない。即応集団が聞いて呆れる。そう思わない?
運転手に問われた、助手席に座るまだあどけなさの残る少女は棒付きキャンディを頬張りながら
「政治的な話は勘弁。事実は一つ、日本は負けた。対テロ戦争への意気込みが足らなすぎた」
そう答えると、体に着込んだチェストリグの調整具を締め直した。
「てなわけで”予備”のあたしたちが”メイン”ってわけ」
運転手はそういいながら、耳元の通信機を叩く。
「こちらブラックジャック。バードマン、聞こえる?」
『こちらバードマン、ニュースは見ているな?3-5はしくじった。グラディウスにつなぐ。期待に応えろ』
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