秘すれば花、されど進まず

@masdwrre

先輩と私

第1話 

 私と先輩は学生寮のルームメイトだ。

 S県の県庁所在地の郊外に建てられた中高一貫の女子校。その敷地の隅に鎮座する学生寮で、私は先輩と三年以上の時を過ごしている。

 学生寮の寮室は大体十四畳。決して狭くはないから、

「七畳の部屋を二つ作ればいいのにね」

 というのが先輩の口癖であった。

 私はその言葉を聞く度に、少しだけ寂しく感じるものだけれど、それでも誰かが

「明日から一人部屋に移りなさい」

 とでも言ってくれたなら私は喜んで一晩で荷造りをしただろう。


 先輩は私よりも学年が二つ上で、色素の少し薄い髪を大抵後ろで三つ編みにしている。朝はいつも早くから起きていて、私が目覚めると声を掛けてくれる。それから、私が「おはようございます」と返すと、決って「良い朝ね」という。月曜でも、雪の日でも、風の強い日でも。

 先輩は朝食を食べるために食堂へと降りる前には、もう髪を結い始めて、時々「結って」と私に頼む。私は少しだけそれを楽しみにしていた。先輩のパーソナルスペースに立ち入れた気分になれるからだ。

 身支度を整えると、私と先輩はいつも一緒に食堂へと向かう。けれど必ず、席は離れて座っていた。お互い、同級生と食事を摂り、バラバラのタイミングで部屋へと戻る。

 

 今朝の報道番組では現在のねじれ国会に関する討論を繰り返していた。与党の歴史的な大敗、みそ汁のわかめを箸で掬い口に運びながら、「きっと何も変わらない」と考える。

 食堂でささめきあう、少女たちの歓談。ニュースに目を向けるひとなどほんの一握り。もしくは私一人。

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