100通りの君に100通りの花束を
ちくわ書房
1.はじめの一歩
零時。
近所の寺から鐘の音が響く。
「明けましておめでとうございます」
「うん。おめでとう」
結局こうして迎えてしまった、新しい年。組織を抜け、表社会へ鞍替えをして、初めての正月。
三つ指をついて、私に新年の挨拶を告げる新妻。
「こうして本年も、貴方と新しい年を迎えられたことを───」
「そういう、堅苦しい挨拶はなし。夫婦なんだ、もう、上司と世話人じゃあない」
「そっか……そうね、旦那さんに畏まり過ぎるのもおかしいね」
「だろ?」
晩酌を再開。明日は仕事も休みだ。国木田くんに文句を云われるあれもないし。
「治さん。こんなのんびりしてて、善いのかな……」
「善いんじゃない?」
愛しの妻は、だよね、そうだよね……と不安そうに呟きながら、猪口をぐいっと煽る。
「笑ってよ」
「なあに?藪から棒に」
「一年の始まりに、卯羅の笑顔を見れたら、きっとこの一年はずっと幸せ」
卯羅の腰を目掛けて手を伸ばす。「あ、まって!ちょ……っと!」
「ふふ、笑わないとこうやって……擽って差し上げよう!」
身体を捩りながら、笑い、床に倒れ込む。私も共に倒れ込み、擽る手を止めて、彼女を抱きしめる。顔を見合わせると、照れたように笑う。
「これからはこうして二人で居られるのだね……人目を憚らず、二人で居られる」
二人で打った大博打。変化するもの、しないもの。二人で居られるという幸せは、常にあるわけで。どんなに立場が変わろうとも、二人で居れば、居られれば、幸せ。
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