第11話 ミク、考える

あれから月都さんとお家に着いたのは午前6時を過ぎていました。そこからは2人ともお風呂にも入らずお布団でばたんきゅーしてしまいました。そしてお昼前くらいに目が覚めました。


「ふぁー。ねむー。」


あくびをしながら独り言を言いますが、月都さんはぐっすりです。このまま寝かせてあげましょう。ふふ、寝顔が可愛いです。よだれも垂れています。


「♪ もし今 空から思い出が降ってきたら、まだ僕はー♪」


シャワーを浴びた後、歌を歌いながらお洗濯とお昼ご飯を作ります。昨日の事を思い返しながら。

ん?VOCALOIDも汚れますからシャワーは浴びますよ。


月都さんのシビック、カッコよかったです。マーチさんとは明らかにエンジンや‥よくわかりませんが根本的に違うのはよく分かりました。次の土曜日から一緒に走ることになりましたが、明らかにマーチさんではパワー不足なのは明白です。置いていかれる事間違いなしです。


「うーん、どうすればいいのかなぁ‥。」


また独り言です。私は悩み出すと口に出てしまうことがよくあります。ちょっとGoogle先生に聞いてみましょう。インターネットで調べます。アンドロイドはブラウザが初期でインストールされているので頭の中で検索します。

ナニナニ‥手っ取り早く速くするにはターボ化するべし‥ターボってカイトさんのランエボみたいな感じでしょうか。そもそもターボってなんでしょう。更に調べます。

排気を利用してタービンを使い、エンジンに圧縮した空気を送り込み、より大きなパワーを得ることができる。ターボチャージャー、過給器の事。

ふむふむ、なんとなくは分かりましたがどうなんでしょう。月都さんが起きてきたら聞いてみましょう。


料理が出来上がる頃には匂いに釣られてか、月都さんが起きてきました。


「おはよー、ミク。ご飯作ってくれてるんだー。ありがとー。」


相変わらずのもさもさ頭が可愛いです。この後お昼ご飯を食べながら、先程考えていた事を聞いてみる事にしました。


「あの、マーチさんってそんに馬力はないんでしょうか。多分、来週一緒に走ってもついていけないような気がして‥」


少しトーンを落とし気味に月都さんに聞きます。月都さんはもしゃもしゃと味噌煮込みうどんを食べています。簡単な料理で申し訳ないです。


「ミクのマーチはK12型の初期モデルだから、確か100馬力も無いと思うよ。」


100馬力がどの程度のものなのかもわかりません。100頭の馬分の力?


「俺のシビックは185馬力なんだけど、そもそも排気量が違うんだよね。シビックは1600cc、マーチは1200cc。ボクシングで言う階級が違う‥みたいな感じかな。」


ふうむ、なんとなくわかります。そもそもマーチさんはお買い物車みたいな大衆向けの車みたいですし。走るのには向いていないのはよく分かっています。


「やはりマーチさんは峠を走るには向いてないのでしょうか‥。先程少し調べていたのですが、ターボ化するのはいかがでしょう。」


月都さんのシビックTYPE-R、カイトさんのランエボ10、メイコさんのS14シルビアQ's、どれもスポーツカーです。ついていくためにはパワーがないと。


うんうん、と月都さんが頷いて、諭す様に話し始めました。


「ただ‥これは俺の考えなんだけど、どんな車でも足廻り、ブレーキ関連、サスペンション、タイヤ、これらをスポーツ向きの仕様に変えるだけで峠を走れる車になると思うんだ。ワゴン車でも、軽自動車でも、軽トラでも。」


軽トラ‥?本当でしょうか。頭の中で動画を調べてみると‥軽トラがドリフトしています。まじすか。


「社外パーツ、いわゆる純正のメーカー品ではない走り向けのパーツに交換するのが手っ取り早いんだ。社外品がない車は厳しいんだけど、K12マーチは今でも沢山売ってるんだ。でね‥」


一呼吸置き私をまっすぐ見て、真面目な顔でお話しを続けます。


「まず、ミクはなるべくノーマルに近い形で腕を磨いた方がいいと思う。確かにターボ化してパワーを上げるのも一つの手段なんだけど、それはもっと先、いや、そもそも必要が無いかもしれないんだ。」


‥どう言う事でしょう。うーん。


「車にはバランスが必要なんだ。パワーを上げるとブレーキや足廻りが追いつかなくなる。速度域が上がるからタイヤのインチアップや車の剛性が気になってくる。車のチューンアップはキリがないんだ、お金もかかるし。お金がね‥。」


突然、月都の声のトーンが下がりました。うつむき、少し凹んでいるようにも見えます。お金‥そんなに無いんですかね。。。


「ま、まぁ簡単に言うと、まず足廻りをそこそこのパーツで組んで、それから腕を磨くのがいいと思うんだ。言葉は悪いけど、いきなりターボ化するのは悪手だよ。浅はかとも言えるかな。」


ガーン!そうなんですか。。。辛酸な言葉に少し泣きそうです。うう。


「あ、いや、これは俺の意見で正しいわけじゃないんだ。ごめん、無理強いするわけじゃないんだ。ただ、ミクとマーチ、安全に少しずつ成長して欲しいんだよ。いきなり速さを求めるとあんまりいい事ないからさっ。」


頭をなでなでしてくれます。え、あ、ありがとうございます。なんか照れます、へへ。きっとこれも、月都さんの経験から教えくれているに違いないです。


「月都さん、マーチさんは具体的にどうすれば良いのでしょうか。昨日のスーパーせんどうでの皆さんの会話が気になってしまって。」


そうなのです。とても気になっていたのです。半分寝ていましたが。半分しか寝ていませんでしたが。


月都さんに尋ねた瞬間に目が光ったような気がしました。


「実はね‥」


月都さんが部屋の奥の方に眼を向けてニヤリとします。


「もう、マーチの社外パーツ揃ってるんだよね。」


!?


「昨日みんなと話していてさ、それなりには揃えてるよーって言ったら色々言われたよ。ミクちゃんがチームに入らなかったらどうしてたんだよ、とか。他にも揃えたパーツの趣味が微妙とか。みんな好みがあるしね。」


そんなこととはつゆ知らず、いや、半分寝ていたからしょうがないんですが、みなさんとその様な会話をされていたんですね。


月都さんが梱包されたパーツを開封し始めました。こ、これは‥。

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