第8話 ミク、異次元を体験する③

「ふー。」


私はコンビニの駐車場で、月都さんに買ってもらったコーヒーを飲みながらため息混じりに息を吐きました。


「お疲れ様。大丈夫?」


月都さんが声をかけて気遣ってくださいます。大丈夫です、と返しましたが‥。どうにもこうにも頭が整理できません。一つずつ質問したいのですが、何から聞けば良いのやら。そんな事を考えていると、カイトさんとメイコさんがコンビニから出てきました。


「ランエボも大した事ないわねー!NA如きにあんなに煽られちゃったんだからねー!あら?カイトさんどうしたのかなー?ブーストがあまりかからなかったのかなー?タービンの調子でも悪いのかなぁー?」


コンビニで買ったと思われるアイスを振り回しながら、ここぞとばかりにメイコさんがカイトさんを煽ります。煽り倒してます。


「メイコも上手くなったね。どうやってシルヘアの後半のセクションついて来れたの?」


「教える訳ないじゃない!ひみつよ!」


お話の内容を理解した月都さんは空気を読まず、メイコさんの言う「ひみつ」の答えを話し始めました。


「シルヘアの後半は、シルビアが劣勢になるのは間違いないんだ。どうしても3速に入れざるを得ないストレートがあるから、普通ならパワー負けになるんだけど‥。」


月都さんがチラリとメイコさんの方を見て話を続けました。


「メイコの後ろから見てて気がついたんだけど、コーナーのターンインの時点でハーフスピン気味に車体を傾けて突っ込んで行ったんだよね。恐らく3速から2速に落とす際に、わざとシフトロックさせたんだと思うけど。そのコーナーはシルヘアのヘアピンの中でも緩やかで旋回距離が長いから、ターンイン時にある程度の角度をつけた状態だと、後はアクセル全開で曲がって行けるからね。」


月都さんの言っている内容が当たっていたのか、メイコさんがアチャーみたいな感じになっています。カイトさんは、なるほど‥と、真面目な表情で月都さんの言葉に耳を傾けています。


「まぁ、あんな事は先頭を走っていたら到底できないと思うけどね。対向車を気にして走る先頭車と、後続車じゃ考慮するリスクも全然違う。それを分かっていての作戦だったんだと思うけど、どうかな。」


メイコさんは両手をバンザイしながら


「そのとーりでーす。後ろから見られたら流石に分かっちゃうか。最近、パワーの無さを補うにはどうすれば良いかって考える事が増えたの。でもあまり考えるの得意じゃないから、アクセル踏んでる時間が長ければ速いんじゃないかなって結論になったのよ。その結果が今回の作戦ってわけ。」 


と、いいながらもやり切った感のある表情で言いました。後で月都さんに聞いたのですが、もともとメイコさんは前輪駆動のFF乗りだったらしく、性に合わなかったようで後輪駆動のFR、S14シルビアに乗り換えたそうです。まだリアのコントロールはコーナー出口でパワースライドするくらいしかできなかったから、今回のことは驚きだったそうです。


カイトさんが、ランエボのボンネットを開けて考え込んでいたみたいですが、何か納得したのか閉めて私に言いました。

メイコさんに言われたことが少し気になっていたんですね‥。


「ミクちゃん、次のコースは今までで一番インパクトあるよ。いろんな意味でびっくりすると思うよ。」


えっ、まだ走るんですか!?このコンビニに来るまで、一時間半は走りっぱなしでしたよ!クーリングしながらとはいえ、疲れもあると思うのですが‥。というかここどこでしょう。場所がわかりません。

私がキョロキョロ周りを見ているのを察したのか、月都さんが教えてくれました。


「ここはまだ中間地点。鴨川付近だよ。ほら、すぐそこ、海だよ。」


えっ、海!?真っ暗で気付きませんでした。鴨川って‥。そんな遠くまで来ちゃったんですか。スタート地点のスーパーせんどうは千葉市ですよ。この短時間の間にこんな遠くまで‥。このコンビニって海の目の前だったんですね。


「ミクちゃん!海辺行ってみようよ!気持ちいいよー、砂浜!」


私の返事も待たずに手を掴まれ、メイコさんと浜辺に向かいました。真っ暗でしたが砂浜はとても海風が気持ちよく、疲れが少し癒された気がします。メイコさんとキャッキャしていたらカイトさんがそろそろ行くよーと言いにきましたので、コンビニに向かいました。



『カイト、今日は先頭ばかりで悪いね。』


月都さんがトランシーバーでカイトさんにそう伝えます。どうやらもう少しで次のコースのようです。とてもインパクトのあるコースとの事ですが‥。先ほどのシルビアヘアピンなんてとても印象的なコースでしたけど。


『大丈夫だよ。このコース、「デトロイト」は僕の得意コースだからね。ランエボにはもってこいだよ。僕に離されてミクちゃんに格好悪い所見せないようにね!』


そんなやりとりの中、メイコさんはダンマリです。今の隊列は、カイトさん→月都さん→メイコさん。メイコさん、きっと最後尾が気に入らなくてムクれているに違いないです。


「ミク、横Gが強くかかると思うから踏ん張れる態勢を取れるようにしてね。」


え?ど、どういう事ですか?と口に出そうとしたら、前を走るランエボから右ウィンカーが出されました。ほぼ同じタイミングでシビックもアクセル全開です。スタートがトンネルの中のせいか、爆音を鳴り響かせながら三台が同時に走り始めました。


こ、これは‥!このコースは‥!

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