蒼龍殺人事件

沙波

蒼龍の住処についての伝承※沢町郷土資料より

昔昔。

沢町に西片と言う男が住んでいた。

農業をやって暮らしていたが、ある時、畑を広げたいと思い、てくてく山の方に紆余曲折した道を歩いてくと、大きな洞穴を見つけた。

中は真っ暗でひたひたと水のしたたる音が響く。

何か底知れぬ怖さを感じ、飛んで帰ると、すぐに村の長老に相談した。

「それは蒼龍様の住処だ。丁重にもてなさなければならない」

長老は蒼龍を失礼のない様にお祀りするように西片に言いつける。

そんなことを言われても。と、最初はあたふたとしてしまったが、小さな祠を洞穴の近くに建立すると、一日一回は畑仕事の合間にお参りをした。

出来る限りのお供えもをして。

ある時、村は暴風雨に襲われ、畑も家も失くしたものもあった。

長老は洞穴には上に抜ける穴があり、そこから蒼龍が出て、引き起こしたのだという。

村の人達の怒りは西片に集中する。

「これは蒼龍様の怒りだ。お前がちゃんと誠意をもってお祀りしていないからだ。供物が少ないからだ」

そう文句を浴びせたが、

「一農民の俺が用意できる供物なんて限りがある。これ以上は無理だ」

西片も畑と家族を濁流に流されたその一人だった。

「彼を責めても仕方がない。これからはそれぞれ順番にお供えを用意して、蒼龍様の怒りを鎮めるべきだ」

村の長老に提案に村民たちは、確かに全てを西片に押し付けるのはよくないと話をし、長老の提案に同意した。

それからは村人たちの助けもあり、小さかった祠は神社となり、最初に祠を立てた西片が神社の神主に据えられた。

供物も、立派になり少しずつ蒼龍様は落ち着かれたとかなんとか。云々。

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