キミと僕の約束、それは世界を守る誓いのプロポーズ

はるたん

彩菜サルベーション

断章 『継承、そして——』

 

 人生は選択の連続であり、その選択の中で正解を選び取れる者はいない。

 見るものによっては神と見まがうをその身に宿している無華花彩菜むかばなさいなも例外ではない。

 ただ、彼女は他よりも正解に近い道を歩ける力があっただけ。その力が届かない時、それは道を間違えざる終えないということになる。

 目の前で起きた光景がそうであるように。


「本当にこれしかなかったのか?」

「うむ、少なくとも私にはこれ以外の方法は浮かばなかった。あやつが生きていたなら、もう少し変わりもしたのだろうが」

「……だろうね」


 儀の余波が残る薄暗い空洞。周囲を灯すかがり火が二人の影を地に映している。

 そのかがり火がほのかに揺れる中、彩菜は無力を噛み締めるように目の前の少女の腕の中に抱かれたを見つめ、静かに顔を少女に向けた。

 顔色は酷く悪く、立っているのも精一杯といった様子で身体をふらつかせながら肩を大仰に動かして呼吸し、せめて抱えている子供は溢すまいと二本の足を崩さず耐えていた。


「心残りはあるかい? 可能な限りの要望には応えよう」

「……この子たちを、お前に任せてもよいか?」

「構わない。ただ君の描く結果になる保証は……」

「よいのだ。わたしではお前の隣に並んでやれないが、この子らなら……力を受け継いだ茉弘ならきっとおまえの助けになるはずだ」


 笑ってそういう彼女を、彩菜はただ見てやることしか出来ない。

 もとよりこの手で彼女にしてやれることなどしかない。

 無力感に苛まれながら、彩菜は彼女の腕に抱かれた子供たちを自らの横に移動させる。

 そしてまっすぐと彼女と、何とも形容しがたい不思議な色を映す双眸を見据える。

 理由はただ一つ。——命の灯火を、彼女から消す為に。


「お別れだ」


 頭上に目映い輝きを放つ紋様を二重に浮かべた彩菜の姿に、彼女はこれから迎える結末に怯えることもなく身を硬直させることもなく。


「茉弘と凛祢を頼んだぞ」

「っ……!」


 そう言っていつまでも暴力的なまでに美しかった貌で微笑ながら彼女は死んだ。

 他ならぬ彩菜の手によって。






 私の語らいはここまで。

 これより語られるはの物語。

 私と同じようにこの悲しき世界の命運を担う宿命を背負い、遥かなる未来において私との誓いを果たし、世界最強の魔術師になるまでのお話。

 そして——彼とわたしが恋仲になるまでの物語である。

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