第70話 【壱】運命の選択肢その1
「なんで、動かへんねん」
ゼラは周囲の瓦礫を浮かべながらも動こうとはしなかった。
デッドロードは今のうちと言わんばかりに再生を始める。
(なんや。魔力が、不安定やないか)
◆
俺はどこにいるんだ?
とてつもなく怒っていた気がするのだが、全く思い出せない。
「
「ん? マナか」
俺は幼馴染のマナと一緒に学校へと向かう。
途中の電気屋で見かけたテレビでトラックに人が轢かれたニュースが流れていた。
「あ、この轢かれた人、学校でいじめられていたらしいよ。しかも、その主犯格の親が権力者で揉み消されたとか」
「そんな情報をどこで知ったんだよ」
「ネットニュース」
ネット凄いな。
にしても、なんとなく窮屈に感じる街並みだな。
普段から過ごしている筈の日本の街並みだと言うのに、とても窮屈だ。
草原が木がない。古臭い服や武器を持っている人もいない。
「どったの周りをキョロキョロしてさ?」
マナは茶髪でサイドテールに結んでいる。
ギャルっぽいけど、優しくて学校でも人気である。一緒にいると俺は影だ。
「いや。なんか窮屈って感じがしてさ」
「はぁ? こんなビルが立ち並ぶ都会なんだから窮屈なのは当たり前じゃん? 拓海ってバカだね!」
ニコニコで罵倒して来るが、特になんとも思わない。
表情が動く事がない、それは相手も理解しての態度である。
だが、今回は少しだけ違った。
「え、バカにされたから怒っちゃった? 珍しいね」
「え? 俺、怒ってる?」
「気づいてないの? 眉が寄ってるよ」
確かに、そのようだ。
おかしいな。なんで俺はこんな事で怒っているんだ?
大体感情が動く事ないし⋯⋯でも、そうだな。
少しだけ不愉快だ。
「ニックネームでゼラと呼んでくれ」
「え、なんで? 本当に大丈夫? ニックネームとか言うキャラじゃないでしょ? 熱? インフル? 大丈夫?」
「大丈夫」
「そっかーニックネームか。⋯⋯なら、タクなんてどう?」
「ヤダ」
「拓海が否定した!」
そんな会話をして校門まで向かったのだが⋯⋯そこで荷物検査が行われていた。
しかも学校でも有名な変態教師だ。
「ゲェ」
あからさまに嫌な顔をするのがマナだ。
当然だ。彼女はかなり前に荷物検査と言う名前でジロジロ見られては色々な所を触られている。
しかも手袋をしているので指紋が残らない。カメラを向けようとしたらスマホを没収される。
故に、その教師の好みの女性は誰もが校門を潜りたくない状態だった。
「アイツ、なんでクビに成らないんだよ。死ね死ね」
「言い過ぎだろ。ほら、行くぞ」
俺達は校門から見えない塀と向かった。
そこには容姿端麗な女性が集まっていた。
「拓海、毎回ごめんね?」
「良いよ。みんなはアレが嫌なんでしょ?」
「うん。ついでに言えば嫌い。拓海には分からないでしょうけど」
「⋯⋯いや、あれは嫌だし嫌いだな」
「拓海が感情を示した」
呆然とするマナを横に準備を開始する。
そう言えば⋯⋯あんな教師でも俺はなんとも思っていなかった。
でも、とある女性と当てはめると凄く殺意が沸く。
塀をジャンプで登って、下の方に手を伸ばす。
女子が手を伸ばして掴み取り、上げて行く。
そして内側では他の男子生徒(運動部)がマットを用意して待っていた。
男子生徒が少し離れてから、マットに向かって女子達を下ろす。
これを繰り返す。
ちなみにこれは俺以外でも良いと思うが、女子と関わってもなんとも思わないから俺らしい。
感情が無い人間だと、全校有名である。
学校のマドンナ? とやらに告白された時に断ったのが影響したらしい。
ちなみに後日の学校でショートヘアにその人はなっていた。
それらが終わったら学校に持って来てはダメな物を持って来た生徒達も同様に行う。
最後にマナを上げて、一緒に降りた。
「時間やばいよ。速く行こ!」
「ああ」
マナの横を必死に走って向かう。
彼女は長距離の陸上部なので俺よりも速いのだが、スピードを合わせてくれている。
「ちょ、速い」
「え、なんで俺はマナの前を走ってるんだ?」
「分からないよ。ただ速いよ」
息を切らしている。
なんでだろ?
それから普通の日常が流れて、友達をやってくれている人とくだらない会話を行う。
今だから思うけど、きっと俺がこの子らに合わせている事を気づいているのだろう。
話の振り方が上手い。
「なぁ、お前はいつ、マナに告るんだ?」
「前にも言ったが、俺とマナは幼馴染でそんな感情はないよ。ないのにするのは彼女が可哀想だ。もっと良い奴が数年後には現れるよ」
「ほう。具体的には?」
「具体的に⋯⋯8年後には結婚式やってるから、それまでには出会ってるな」
「偉く具体的だなおい」
あれ?
そう言えば本当に具体的だな。
しかもその確信がある。俺も誘われてきちんと出たから覚えている。
まさか俺に予言能力が手に入ったか?
そう言えば、その時のマナの顔、笑顔じゃなかったな。
ま、だからなんだって話だけど。
「た、拓海さん!」
「⋯⋯えっと、どちら様?」
「そんな! 自分の事、忘れられましたか?」
「えーと」
「拓海! なんで
⋯⋯え?
でも、それが本当なら告白を断って、後日髪の毛がショートになっている筈。
だと言うのに、金髪ロング?
「⋯⋯ヒスイ」
「何言ってんの?」
「あ、すまん。えっと、鬼龍院さんはなんの様ですか?」
「あ、えと、この場ではなんなので、場所を変えてもよろしいでしょうか?」
「まぁ、良いですけど」
ヒスイ、何かとても大切な事を忘れている気がする。
鬼龍院さんに連れられて場所を屋上に移す。
少しだけ思い出した。彼女とは入学式に縁があって以来、ちょくちょく関わっていた。
あまり興味がなくて忘れていた⋯⋯違う。昔過ぎて忘れいただけだ。
でも、なんで昔なんだ? 分からない。
「その、自分達は出会って三年、もうすぐ大学受験ですね」
「そうだね。一生懸命勉強しないとだ」
「はい。それは自分も同じです⋯⋯あ、あの!」
「はい」
ドアの方を見るとギャラリーが多かった。
「じゅ、受験が成功したら、彼女にしてくれませんか!」
そう言って梅干しのように真っ赤な顔を下げた。
ギャラリー達が静かに盛り上がっている気がする。
俺の答えは勿論ノーだ。
だけど、俺はその先の答えを知っている。
後日、ショートヘアにしていつものように挨拶をして来る。
そしてそれからも俺に関わって来ていたけど、たまたまマナがスキンシップのハグをしたタイミングで出会って、⋯⋯それ以降彼女は学校に来なくなる。
そして受験も当然失敗する。
その時はなんでか分からなかった。本気で。
でも、今なら分かる。
彼女は本気で俺の事が好きだったのだ。
でも、俺はなんとも思わなくて、そして彼女の事を考える事もしなかった。
⋯⋯だからなんだ?
俺はどうしたいんだ?
彼女を助けたい? なんで?
別に彼女が死のうが俺には関係ないし、俺の人生には影響がない。
だと言うのに、なんでここまで深く考えているんだ?
だからか、こんな質問をした。
「⋯⋯鬼龍院さんは、どうして告白しようと思ったんですか?」
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