第61話 神カオスさんとの雑談

『君は守りたい存在を作り出しているんだよ。なぜか分かるか? それが君の欲望であり人間身だからだよ』


 カオスが楽しそうに動きながらそうやって言って来る。

 正直、意味が分からない。

 俺の前世はあまり欲という欲がなかった。

 そして、ここで魔物としての本能である強くなりたいと言う欲が出たのは確かだ。


 しかし、守りたいと言う欲は無いはずだ。

 俺はヒスイが大切だから守りたいと言うだけであり⋯⋯欲望なんて、そんなモノではない。


『なるほど。言い聞かせている訳ね。⋯⋯ま、仕方ないよね』


「なんだよ」


 俺が不貞腐れた様に言うと再び楽しそうに笑った。

 それにかなり苛立ちを覚えた。

 こいつはさっきから俺がイラつく事ばかりしやがる。


『心の中で会話するんじゃないの? 本当に守りたいと言うだけの思いなら⋯⋯危険的な場所には行かせない。行くとしても前もって排除するべきだ。それが効率的、心と呼べるモノのなかった君が一番考えていた効率化だよ』


 それがこの世界にとっての善人でもか?


『善人だと、誰が決める? 神か? ならば言おう。くだらない。我々はこの世界が滅ぼうとも気にしない。むしろそれを観察するだけだ。善行など違う視点から見たら悪行かもしれぬだろ?』


 確かにその通りだ。

 だから俺は反対しなかった。ついでに反応も示さなかった。


『⋯⋯まぁ世界が滅ぶのは君が許容しないだろうけどね』


 当たり前だ。

 この世界にはヒスイやリーシア達、エドの人達がいる。

 そんなのは許せない。許せるはずがない。


『ヒヒヒ。君はね特別なんだよ。何かと言うとね、君には本当に感情が欠落してたんだ。人間として不完全だったんだよ。承認欲求も金銭欲も性欲も何もなかった。寝るべきだと判断してから寝るし、食べるべきと判断してから食べる。君は色々と決めてから考える。客観的にね』


 だからなんだと言うんだよ。


『不思議なんだよ。君のような人間は本来ありえない。欲望に従い動くのが人間だ。しかし、君にはそれがない。面白いと思わないか? 君は家族が死んでもなんとも思わない。愛してると本気で思って言ってくれている相手に何も思わない。目の前で人が死のうとも、後輩が自分よりも出世しようとも、道具のように使われても⋯⋯全部色々と考えながら行動する』


 それがなんだと言うのか。

 そんな人探せばいくらでも居るだろ。


『いないよ。どこかに監禁されて育成されてたら自由になりたいと願う。欲望がなくても願いはあるだろ? 君にはないけど』


 だからなんだよ。

 いちいちムカつくな。

 さっさとここから解放して俺に【龍王神化】を使わせて欲しい。

 そしてアイツを殺す。


 そんな事を考えていると、カオスは嬉しそうに笑った。

 そこでようやく気づいた、こいつは俺が感情を顕にする度に喜んでいると。

 そして敢えて挑発的な行動をしていると、ようやく分かった。


『そこである実験をしてみたんだよ。感情が無い存在に感情を無理矢理与えたらどうなるのか、てね』


 それが俺か。


『察しが早いね。しかし、神であろうとも認識のしにくい感情は難しい物だった。ま、そのせいでバグってドッペルゲンガーって言う姿形を持たない存在になっちゃったけどさ。本当なら誰かに変身して過ごすはずだった。⋯⋯でも、まだ転生したばかりの君は不安定だったから客観的に観察を繰り返して変身先をいくつも作ってしまった。だから色々な姿形、更には組み合わせる事が出来るようになったんだ。異例だよ。おめでとう』


 それは都合の悪い存在なんじゃないか?


 そう考えると、『のんのん』と言いながら人差し指を左右に揺らして来た。


『むしろありよりのありよ。面白いもん。僕達はね。どれだけ面白いかを追求してるの。君は凄いよ。本来ありえない成長を遂げているんだもん。⋯⋯だけど、やっぱり人間だよ、中身はね』


 あっそ。

 褒め言葉ありがとう。


『そうだね。君にとって人間は褒め言葉か。⋯⋯と、まぁ感情を無理矢理与えた訳だね。しかし完璧とはいかなかった。やっぱり感情ってのは子供からの成長で育つからね。価値観と一緒さ。ま、君にはなかったけどさ!』


 そうだな。

 それは確かだ。

 周りで皆が面白いと言っていたギャグ番組もアニメもドラマも、何も感じなかった。

 ただ見て感想を相手が嬉しいと思う風に言ってただけだ。


『それでねそれでね。君には大まかに二つの感情が芽生えたんだよ』


 強くなりたいと言う欲と⋯⋯なんだ?


『一つは生きたいと言う生存本能的な欲望。魔物に転生して、長らく魔物に変身していた影響かもね。それが強くなると言うのに繋がったんだよ』


 ヒスイと会う前は魔物に変身していた。

 まぁ、ゾウにも沢山変身したが、獣と言う観点では同じだ。


『そしてもう一つが面白い事に庇護欲だったんだ。誰かを守りたい。そして自分の存在が居る事が正しいと自分自身で認めたい、そんな欲望さ』


 バカバカしい。


『そう言うけどね。君は守りたい対象を最初に孤児院の子供達を選んだ。なぜか、名前をくれたから。魔物にとっての名前ってかなり重要なんだ。魂の繋がりが出来た相手だから守りたい。君は分からなかっただろうけど、その思いにはきちんと理由があったんだ』


 それが依存に繋がった訳か。

 確かに、ヒスイにも言われたが子供に対して無償の善意を与えていた気がする。

 子供は純粋だから悪い事はしないって潜入観もあった。


『だけど身勝手な理由で殺された。守る対象が居なくなった君は焦りに焦った。悲しみや絶望よりも焦りだ』


「そんなわけあるか!」


 俺は全力で否定した。

 だって、リーシア達が死んでしまったと自覚したら悲しかったから。

 辛くて押し潰されそうな気持ちになったから。

 だからそんな風に言われるのが嫌だった。


『それは君の人間であろうとする無意識がそう思い込ませたんだ。そして焦った君は復讐と言う形で焦りを拭った』


 ⋯⋯もう良いだろ。

 さっさとここから出せよ。


『まだ聞いてよ。守る対象が居ないから次にエルフちゃんに決めた。元々契約と言う繋がりを持っていたけど、この時点で親密な魂の繋がりが出来たんだ。面白いよね。⋯⋯そして君はどんどん不安定な感情を固めつつあった』


 なら良い事じゃないか。


『だよね! 無理矢理感情を与えるとどうなるのかって言う実験の成果として良いよ。まぁ面白くないのはあのエルフちゃんが君との魂の繋がりのせいでとても強くなった事だけどね』


 ヒスイの事を面白くない?

 だったら、始末するのか?


『しないよ。単体では面白くないけど、君と居ると面白いから。⋯⋯でもさ、君は単体でも面白いよ。うさぎしかりドラゴンしかり、相手の姿になって戦った』


 確かにそうだな。

 ドラゴンの時は少しだけ混ぜたけど。

 ⋯⋯それでようやく互角だったから、姿を真似しても純粋な身体能力は完全に一致しないのかもしれない。

 盲点だった。


『だけど今回はそれをしてないよね?』


 確かに。

 まぁ理由が⋯⋯


『理由がある? それは龍人じゃないと切り札の龍王神化が使えないから?』


 その通りだ。


『そうだね。側だけ真似したからその側を大きい物にしないといけないよね。⋯⋯君は素晴らしい体を手に入れた。だと言うのに、固定概念に縛られ過ぎている』


 何?


『長々と解説しちゃったね。理由として僕と言う存在をしっかり認識して貰うのと、意識の繋がりを持つ為だね。本当はもっとお話したいけど、これ以上長引かせると怒られちゃうからさ。そろそろ本題に入るね。最後に感想を聞かせて。僕との話、為になった?』


 為になったかは分からないけど、情報は得られた。

 確かにプレイヤーの事とかもっと聞きたいけど俺の感情は与えられたモノでも、自分のモノでもあるとしれたのは良かったか怪しい。

 ただ、庇護欲のところは正直なんとも言えない思いがある。

 なんか全てを知っている感じに話されるのが本当に嫌だ。


『それじゃ、本命行きますか』


 カオスが指を鳴らすと精神世界の深淵が世界を作り出した。


「え」


 ここでは俺を変えてしまうような光景が流されていた。

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